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コメの安値に潜む危機──日本の農業と食を次世代につなぐために

日本の農業と食の基盤を守るために——「コメ安値は根本解決ならず 小川氏」から考える

日本の食卓に欠かせない「米」。その価格がここ数年で低迷し、生産者の不安が高まっています。2024年5月、立憲民主党の小川淳也政調会長は記者会見で、コメ価格の安値が根本的な課題解決にはつながっていないと述べました。その背景には農業構造の変化や制度の歪み、将来の日本の食料自給率に対する深い懸念があります。

本記事では、小川氏のコメントを手がかりに、現代のコメ価格の低迷がなぜ課題であるのか、また私たち消費者や社会全体がどう向き合うべきなのかについて考えていきます。

小川氏の警鐘:「コメ価格の安値」は表面的な現象

現在、全国的にコメの価格が下落傾向にあります。一見すると「食費が安くなって消費者にはありがたい」と思われるかもしれません。しかし、小川氏が指摘したのは、単に価格が安いことの問題ではなく、その背後にある「制度設計のゆがみ」や「中長期的な農業政策の不在」といった構造的な問題です。

日本では、コメは長らく「減反政策」によって生産調整されてきましたが、2018年に政府による減反制度が廃止されました。その結果、市場原理に委ねられる部分が増え、需給のバランスを取るのがより困難になっています。加えて、近年の人口減少や食習慣の多様化により、そもそもコメの消費量自体が緩やかに減っていることも要因のひとつです。

しかし、だからといって生産調整を完全に市場に任せたままでよいのでしょうか。小川氏が「農業政策の抜本的な見直しが必要」と述べたように、価格安定と生産者保護、そして食料安全保障のバランスを取るためには、新たな視点からの制度設計が求められているのです。

農家の苦悩と持続可能性の危機

米農家の経済的な苦境は年々深刻化しています。たとえば、種子費用、肥料、燃料といった生産コストが高騰している中でコメの販売価格が下落すれば、当然、利益は圧迫されます。特に、家族経営規模で耕作している中小農家にとっては、「もう仕事を続けられない」と生産をやめる決断をする人も少なくありません。

また、高齢化が進む農村部では、後継者不足も相まって、耕作放棄地が増加する懸念もあります。一部では、農地の集約やスマート農業などの取り組みも見られますが、それらはまだ十分に普及しているとは言い難く、全国的な解決策にはなっていません。

つまり、価格の安定は単なる経済問題にとどまらず、地域社会の持続性、日本の食の未来そのものに関わる深い問題なのです。

食料自給率と国民生活

現在、日本の食料自給率(カロリーベース)は約38%と、先進国の中でも最低レベルです。これは、「日本人が100人いたら、そのうち38人分の食料しか国内で賄えていない」ということを意味します。米はその自給率を支える大黒柱であり、国産で完全に自給できる数少ない食料でもあります。

この米の生産が縮小し、供給量が減ってしまえば、私たちの食の安全保障はさらに脆弱になります。たとえば、災害やパンデミック、国際的な紛争などによって輸入が滞った場合、大きな影響を受けることになります。小川氏の言葉通り、今の価格の安値を「その場しのぎ」とせず、日本の食料安全保障としての側面からも真剣に見直す必要があるのです。

あるべき農業政策の方向性

このような状況下で、私たちはどのような農業政策を求めていくべきなのでしょうか。

まず一つ目は、「価格安定装置」としての公的役割の再定義です。たとえば、一定の範囲で生産数量・価格を市場でコントロール可能にする枠組みや、「備蓄米制度」などを強化することで、価格の過度な変動を抑えることが考えられます。農家が安心して作付けできる状況を作ることが、生産量の維持と品質向上につながります。

二つ目は、新規就農者への支援策の拡充です。今後の日本の農業を担う若い世代が、「農業で食べていける」と希望の持てるような制度設計や生活インフラの整備も欠かせません。ICTの導入支援や、耕作地のマッチング支援などもその一環でしょう。

そして三つ目に、教育・啓発活動によって、「農業=国の基礎」である認識を広く浸透させることが重要です。我々消費者が適切な価格で農産物を購入することで、日本の農業を支えるという意識が定着すれば、市場の安定化にも寄与します。

私たちにできること——日々の選択から

農業政策の改革や構造対策には確かに時間が必要です。しかし、その一方で私たち消費者も日々の生活の中でできることがあります。

たとえば、地産地消の意識を持ち、国産の米や野菜、農産物を選ぶこと。地元産や無農薬のものを少し価格が高くても買ってみること。その「選択」は、農家の支えとなり、地域の農業の継続につながります。

また、食のありがたみや農家の現状を理解するために、農業体験や産地見学に参加するのも一つの方法です。生産の現場を知ることで、スーパーに並ぶ一粒のお米のありがたさがよりリアルに伝わってきます。

結びに──危機の本質を共有し、次の一歩へ

「コメ安値は根本解決ならず」という小川氏の発言は、単なる政策批判ではなく、迫り来る日本の農業の危機を多くの人に伝えようとするメッセージであると受け止めるべきです。

価格の安定は短期的に見れば喜ばしいことのように映りますが、その陰で失われつつあるものにも目を向けなければなりません。日本の豊かな風景を形づくる田んぼや、四季折々の風情ある農村景観、そして何より未来の子どもたちに安全でおいしい食を残すために、今こそ社会全体で農業の再構築に取り組むべき時なのではないでしょうか。

今週の食卓に、一杯の国産米のごはんを。「いただきます」の言葉に込められた感謝の気持ちが、農業の未来を守る一歩になることを願っています。