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さよならではなく、ありがとう——シャンシャンと私たちの200分

上野動物園「最後の屋外パンダ」シャンシャンへの想い 待ち時間200分に込められた愛

2023年2月、東京・上野動物園に多くの来園者が詰めかけ、最長で200分超とも報道された行列ができました。その目的は、人気のメスのジャイアントパンダ「シャンシャン」との“最後の対面”です。

2017年に誕生し、来園者の心を掴んできた「シャンシャン」は、中国との約束に基づき、今後は中国へ返還される運びとなりました。その前に「屋外展示」での観覧が終了することとなり、最後の姿を一目見ようと駆けつけた多くの人々。熱気とともに、名残惜しさの混じる雰囲気が広がっていました。

この記事では、多くの人々の心を打つシャンシャンの軌跡と、その人気の背景、今回の屋外展示終了に至る経緯、さらにはパンダと私たちとの関係性について紹介していきます。

シャンシャンの誕生と成長

シャンシャンは2017年6月12日、上野動物園で誕生しました。その可愛らしい姿と、日本国内でのパンダの出産としては5年ぶりのニュースということもあり、瞬く間に国民的な関心を集めました。

その愛らしさは、テレビやSNS、グッズなどでも広く取り上げられ、「シャンシャンフィーバー」と呼ばれるほどのブームを巻き起こしました。母親のシンシンに抱かれて眠る赤ちゃん時代の姿や、笹を食べながら遊ぶ無邪気な様子は、多くの人にとって癒しと笑顔を届ける存在でした。

「見られるのは今だけ」——この希少性が人々の足を動かす

2月20日を最後に、屋外展示が終了することが発表されると、上野動物園には朝早くからの長蛇の列ができました。観覧は事前の抽選制で行われていましたが、「少しでも近くで見たい」「最後に目に焼き付けたい」という思いが、待ち時間という形で表れたのです。

ある来園者は、「200分待っても見たいと思わせてくれる存在」と語ります。ただ動物が見られるというだけでなく、シャンシャンとの出会いがそれぞれの思い出になっていったことが、この異例ともいえる人出を支えていたのでしょう。

このような風景には、動物への単なる観察以上の感情が根付いています。特にコロナ禍でストレスが続く中、人々が動物の癒しに救われる機会は増えており、シャンシャンはその代表格といっても過言ではありません。

日中友好の架け橋としてのパンダ

パンダは世界中で愛される動物ですが、飼育されるには中国からの貸与契約が必要であり、その多くは期限付きです。シャンシャンもその例に漏れず、中国との協定に基づいて返還される運びとなりました。

中国に返還されることは予想されていたことではあるものの、実際にその日が近づくと、多くのファンが複雑な気持ちになるのは当然のことです。

しかし、シャンシャンが中国に渡って繁殖プログラムに参加すれば、その子どもたちが世界各地で見られるようになり、次の世代へとつながっていきます。

パンダは、動物としてだけでなく、国と国とのつながりや、地球環境、種の保存などさまざまな意味を持ちます。シャンシャンに注がれた愛情は、そうした視点からも大きな価値を持っているのです。

パンダに託された「いのち」と人の願い

私たちが動物園を訪れて感じるものの一つに、「いのちの大切さ」があります。見た目の可愛らしさだけでなく、その背後にはスタッフによる飼育努力、動物の生態への理解、そして地球上で共に生きる意味が詰まっているのです。

特にパンダは、竹しか消化できない特殊な消化器官をもち、その繁殖も極めて難しいことで知られています。動物園では、こうした困難を乗り越え、次の世代へとつなげる努力が日々続けられていることを忘れてはならないでしょう。

今回の200分待ちという数字が示すのは、人気だけではありません。それだけ多くの人が、シャンシャンという「いのち」に寄り添おうとした証でもあるのです。

お別れは悲しくても、新たな出発を祝おう

上野動物園でのシャンシャンの姿を見られる日は残りわずか。そのため一目見ようとする人々の列は、今後さらに長くなることが想定されます。ですがこれは、決して悲しみだけでは終わる別れではありません。

中国に旅立った後も、シャンシャンの近況が報じられ、新たな場所での成長が見守られることを願う人は多いでしょう。別れは寂しさを伴いますが、それは同時に、新たな場所でのスタートの始まりでもあります。

「ありがとう、シャンシャン」「また会える日まで」――多くの人の祈りと応援が、きっとこの小さな命に届いていくことと思います。

私たちがパンダに学べること

この一連の出来事を通して改めて強く感じることは、動物と人の関係は単なる「鑑賞者と被鑑賞者」ではなく、感情を通じて繋がる「生命の共有」だということです。

シャンシャンの持つ温かさや癒しの力、そしてそれに応える私たちの愛着。そのバランスが、良好な動物飼育と人間社会との共生の理想形なのかもしれません。

末筆ながら、シャンシャンと上野動物園、「200分待ってでも会いたい」と列に並んだ全ての人々に敬意を表するとともに、私たち一人ひとりが動物という命に対して、より深い関心と愛情を持つきっかけとなれば幸いです。

写真や動画では決して味わえない、目の前にいる命との出会い。次にその感動を与えてくれる存在は誰になるのか。今後も動物園という場所を通して、私たちはたくさんの「かけがえのない瞬間」に出会えることでしょう。

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