近年、日本各地で地域貢献や市民参加への意識が高まる中、ボランティア活動もそのひとつとして重要視されています。人と人とが助け合い、支え合う社会の実現に向けて、ボランティアは欠かせない存在です。しかし、その「善意」の活動が、行政の思惑によって歪められてしまうとしたら、どうでしょうか。
2024年6月、宮城県石巻市で起きた「ボランティア登録の“代行”問題」が、地域社会に小さな波紋を広げています。市議の関与や、その背景となる制度的な問題について、今回はじっくりと考察してみたいと思います。
石巻市で浮上した「勝手にボラ登録」問題とは?
報道によると、石巻市で今春始まったボランティア登録制度において、ある市議の関係者が無断で他人の名義でボランティア登録をしていたことが明らかになりました。問題の背景には、「市議にノルマが課せられていた」という情報もあり、「登録数を稼ぐため」に本来の本人同意がないまま登録された可能性が高いというのです。
この登録制度は本来、地域の災害支援や高齢者支援など、様々な市民活動へ積極的に参加してくれる人材のリストアップを目的としたものでした。登録は任意であり、市民が自由意志で申し込むことになっています。ところが、一部の登録が「本人の同意なしに進められていた」というのは、制度の根本を揺るがす事態です。
無断登録の背景にあった「市議のノルマ」とは?
報道の中で注目されたのは、「市議に対して登録人数の“ノルマ”が設定されていた」という証言です。石巻市の制度には、市議に対して1人あたり80人の登録を呼びかけるよう要請していたと伝えられ、これが「実質的なプレッシャー」となっていたとされています。
市議は本来、地域住民の意見を市政に反映させる大切な役割を担っています。そんな中で、自発的な市民活動の一部であるボランティア登録が、「数の目標」や「成績評価の対象」とされた場合、良識ある政治活動とは異なる方向に進んでしまうおそれがあります。
もちろん、市民参加を促す一環として市議が呼びかけを行うこと自体は問題ではありません。しかしながら、その呼びかけが強制的、あるいは形だけのものになってしまったとしたら、制度の意義までもが問われることになるのです。
市民の声:信頼の低下と困惑の広がり
報道後、市民の間では「自分が知らないうちに登録されていた」と驚きを隠せない声が相次ぎました。なかには「身に覚えがない」「勝手に名前が使われていた」と不信感を募らせる人も見られました。
こうした反応は、ごく自然なものです。本来、ボランティア登録とは当人の意志によって行われるべきであり、個人情報の取り扱いにも慎重さが求められます。誰かの善意を「数字」に変えることで制度を運用した結果、信頼を損ねる構図が浮き彫りになったのは大きな問題です。
行政とボランティア制度のあるべき関係
そもそも、ボランティアとは「自発的」「無償」「継続的な参加」が基本の理念とされています。そのため、制度の導入や拡充に際しては、行政も「市民の自主性」と「個人の意志」を何より尊重すべきです。
にもかかわらず、「登録者数を増やさなければならない」というプレッシャーを市議に与えていたとしたら、それは制度の理念を見失った運用と言わざるを得ません。市民の信頼を受けながら制度を成長させていくはずが、却って制度そのものに対する懐疑心を生む結果となってしまいます。
このような問題を未然に防ぐためにも、行政は「数字ありき」でなく、一人ひとりの意志と参加しやすい環境整備に注力すべきです。「ノルマ」「指標」「成績」のような発想ではなく、誰もが気軽に参加でき、気持ちよく活動できる土壌が重要です。
市議会と行政は何をすべきか
今回の件を受けて、石巻市では関係者からの聞き取り調査や情報収集を行っているとの報道もあります。問題が事実であり、無断登録が複数存在している場合には、市としても原因の究明と再発防止策を真摯に講じることが求められます。
また、市議と行政の役割分担についても見直しが必要です。「周知」は大切ですが、それが「強制」や「数合わせ」になってしまっては本末転倒です。必要なのは、議員自身が市民と丁寧に対話し、共に制度を育てていく姿勢です。
未来へ:私たちが考えるべきこと
今回の出来事は、単なる「登録のミス」や「報告漏れ」として片付けるべきではありません。それよりも、「市民の善意をどう活かすのか」「自発性をどう守るか」、私たち全員が考えるべき問題を投げかけています。
制度の導入や公の施策は、どれも社会をより良くするためのものです。しかし、運用の仕方ひとつで、効果的にもなり、逆効果にもなり得るのが現実です。「信頼」を基本に据えた制度運用こそが、これからの行政に求められる視点ではないでしょうか。
ボランティアの輪が広がる社会であるためにも、こうした問題に対して真摯に向き合い、改善点を一歩ずつ積み重ねていく姿勢が、今後の信頼回復と地域活性化の鍵となるはずです。
まとめ
石巻市で起きた「勝手にボランティア登録」問題は、市民の信頼と制度の本質に一石を投じるものでした。制度そのものに罪はなく、それをどのように運用し、誰がどのように関与するかが問われています。
今後、全国で同様の仕組みが立ち上がる可能性もある中、この出来事を一過性の騒動とせず、再発防止と制度改善に活かすことが重要です。私たち一人ひとりも、制度と参加のあり方を自分ごととして捉え、より良い市民活動のあり方を模索していきたいものです。