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ハーバードとMITがトランプ政権を提訴 留学生ビザ新方針に揺れるアメリカの教育現場

アメリカ・ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)が、トランプ政権を提訴したというニュースが話題となっています。2020年7月、米政府が出した「留学生ビザに関する新方針」に対して、多くの高等教育機関や学生たちが大きな懸念を抱き、ついには世界屈指の大学であるハーバード大とMITが法的措置に踏み切ったのです。

本記事では、この一連の出来事の背景・影響・そして今後の動きについて、できるだけ分かりやすく丁寧に解説していきます。

留学生への新方針の概要

アメリカ移民税関捜査局(ICE)は、2020年7月6日、秋学期にすべての授業をオンラインで行う大学の留学生について、その学生はアメリカに滞在できず、帰国しなければならないという新たなガイドラインを発表しました。すなわち、実地授業を提供しない大学に在籍する留学生は、F-1ビザまたはM-1ビザの保持者であっても滞在資格を失い、国外退去を迫られる可能性があるという内容です。

この発表は、新型コロナウイルス感染症の影響でほとんどの大学が安全の確保を目的にオンライン授業を選択している中、突如として出されたものであり、多くの大学や学生が混乱と不安に陥りました。

ハーバード大学とMITの対応

この政策発表を受け、ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学は速やかに反応し、翌7月8日には連邦地方裁判所に対し、移民税関捜査局(ICE)と国土安全保障省(DHS)を被告として正式に提訴しました。

訴状では、「この方針は突然であり、合理的な議論や手続きなしに行われたものである」「多くの学生の学習・生活を混乱させ、大学としての判断を損なうものだ」として、即時の差し止め命令を求めました。また、提訴の中では、この新たな政策が従前の方針をいきなり反転させたものであるとも指摘されていました。

というのも、それまでの春学期においてはパンデミックへの対応としてオンライン授業が一般的となり、ICEも柔軟に対応をしていた経緯がありました。しかし今回の新方針ではその対応が打ち切られ、大学や留学生たちが急な方針転換に翻弄される形となったのです。

留学生および大学に与える影響

この新方針がそのまま実施された場合、多くの留学生が自国への帰還を余儀なくされることになります。しかしながら、現在のパンデミック状況を鑑みると、世界の多くの国では渡航制限が行われており、必ずしもスムーズな帰国や再入国が可能というわけではありません。

加えて、オンライン授業に必要なインフラや環境が全ての国や地域で整っているわけでもなく、意欲のある学生が教育の機会を失う可能性もあるのです。

また、大学にとってもこの政策は深刻な意味を持つといえるでしょう。アメリカの多くの大学では、国際学生の存在が財政面・文化面で重要な位置を占めています。優秀な留学生を多く受け入れてきたハーバード大学やMITにとって、その学生たちの突然の帰国は教育の質や研究の多様性、国際性に対し大きな打撃となることは間違いありません。

さらに、すでに留学の準備を進めていた新入生や家族にとっても混乱は大きいものであり、心理的な不安も計り知れません。これまで数ヶ月、あるいは数年をかけて留学を目指してきた学生たちが、急な方針変更によって夢を断たれることは、非常に残念な事態です。

多くの大学や団体も反発

ハーバード大学とMITによる提訴が報じられた後、全米の多くの大学や教育団体が両大学への支持を表明しています。コロンビア大学やスタンフォード大学、カリフォルニア大学システムなどが、声明や書簡を通じて移民制限に対する懸念を示し、提訴への連携を示唆しています。

約180の大学が連名でICEの方針撤回を求める意見書を提出するなど、高等教育機関全体が一体となって抗議の声を上げているのです。

また、マサチューセッツ州を始め17州が州として連邦政府を提訴する構えを見せている点も注目です。この問題が単に個々の大学だけの問題にとどまらず、全米規模の教育政策や社会構造にかかわる課題として浮き彫りとなってきていることが分かります。

国際社会からの反響

このニュースはアメリカ国内だけでなく、世界中で広く報道されています。とりわけアメリカに多くの学生を送り出している中国、インド、韓国、日本などのアジア諸国では、関心が非常に高く、多くの学生や教育機関が今後の展開に注視しています。

国際間の教育交流や学術研究を支える上で、安定したビザ制度が必要不可欠であることを、今回の問題は改めて示してくれています。

今後の見通しと希望

本提訴の行方に関しては、今後連邦裁判所の判断が注目されます。アメリカの司法制度では行政機関の政策を差し止めたり撤回させたりすることが可能であり、過去にも多くの政策が法の原則に照らして修正された歴史があります。

また、社会の声が大きく反映されるアメリカのシステムにおいて、多くの市民・学生・大学関係者が団結してこの政策に異議を唱えている点も、今後の判断へ影響を与える可能性は大いにあります。

教育の本質は、国籍や境界線を越えて人々が学ぶことを支えるものです。今回のような予期せぬ危機の中で、いかにして多様な背景を持つ人々が公平に学び続けることができるか。その課題に社会全体がどう応じていくかが問われています。

締めくくりに

今回のハーバード大学とMITによる提訴は、高等教育の現場がいかに国際化しているか、そしてその国際的な連携がパンデミックによっていかに脆弱になりうるかを明らかにした象徴的な出来事です。

政策一つの変化が、多くの学生の人生を左右し、アメリカという国の教育・経済・文化にまで影響を及ぼすことを、私たちはこのニュースを通じて今一度真剣に受け止める必要があります。

留学生であるなしにかかわらず、「安心して学べる環境」が保障されること――それが、世界中の教育関係者と学ぶ者すべてが求める基本的な希望であることを、忘れてはならないのではないでしょうか。