日本の年金制度、特に基礎年金については、長年にわたり議論が続けられてきました。超高齢社会を迎える日本にとって、年金制度の持続可能性と公平性は喫緊の課題です。2024年6月、政府と与党内で「基礎年金の底上げ」が政策検討の俎上に上がり、注目を集めています。この記事では、今回の基礎年金底上げについての動向と背景、その意義について詳しくご紹介します。
■ 基礎年金とは何か?
まず、「基礎年金」とは、日本の公的年金制度の土台となる年金で、原則20歳以上60歳未満のすべての人が加入する国民年金に基づいて支給される制度です。厚生年金や共済年金などとは異なり、職業や収入に関係なく支給されるのが特徴です。2024年度の満額支給額は月額約6万8,000円程度であり、年金だけでは生活をまかなうには難しいのが現状とされています。
■ 年金をめぐる課題
少子高齢化の進展によって、現役世代の保険料負担は年々増加しており、年金財政全体のバランスをどう取るかが大きな課題になっています。特に、フリーランスや非正規労働者など、いわゆる「第1号被保険者」と呼ばれる人々にとって、保険料の負担は重く、その結果として納付率が低くなる傾向もあります。そのため、老後の生活が年金だけでは不安だという方も多く、経済的困窮に陥る高齢者も増加傾向にあります。
また、生活保護を受給する高齢者の数も増えており、本来生活の最後のセーフティネットであるはずの生活保護に、年金では足りない部分を補ってもらっているという構図も見られます。これが結果として国や自治体の財政を圧迫する要因の一つにもなっているのです。
■ 岸田政権の対応と与党の動き
2024年6月、政府・与党内では、こうした現状を改善するために「基礎年金の底上げ」が本格的に議論されています。報道によると、与党自由民主党では岸田政権の求めに応じて、基礎年金の水準を引き上げる案を受け入れる方向で検討を進めているとのことです。
政府側が「受け皿」として示したこの政策は、特に所得の少ない高齢者の生活基盤を強化し、将来的な生活保護依存の減少を見込むものと思われます。なお、今回の底上げに積極的な支援を表明しているのが公明党で、党内では福祉政策に力を入れてきた歴史があります。この方針を与党間で調整し、来年度予算や中期的な財政運営計画に組み込むことが検討されています。
■ 財源の課題
一方で、基礎年金の底上げは簡単には実現しません。最大のハードルになるのが「財源」の問題です。現状の年金制度は、現役世代が支払った保険料を基に高齢者が年金を受け取る仕組みであるため、年金全体には限られた財源しかありません。
具体的には、基礎年金の底上げによって年間数兆円規模の新たな財源が必要になる可能性も指摘されており、消費税の増税や新たな社会保険料の賦課といった案も検討の俎上に上がる可能性があります。ただし、これらの方針は国民への影響も大きく、慎重な議論が求められます。
■ 今後のスケジュールと焦点
今後、年末にかけて与党内での協議が本格化し、政府の来年度予算案にどこまで反映されるかが注目されます。また、財政制度等審議会をはじめとした専門家の意見も取り入れながら、中立性と透明性を保った議論が重要です。この議論の鍵を握るのは、「どこまで国として支援を広げるべきか」、「持続可能な制度にするために何が必要か」といった、根本的な問いです。
■ 国民に求められる理解と協力
基礎年金の底上げによって、多くの高齢者が「安心して老後を迎えられる社会」の実現に一歩近づくことが期待されます。しかし、その一方で、私たち現役世代や若年層には、新たな財源負担という形で影響が及ぶ可能性もあります。重要なのは、制度を一部の人のためだけではなく、全世代にとって「持続的で公平な仕組み」にすることです。
そのためにも、年金制度や税制についての正しい情報に触れ、自らの関心と責任を持つことが問われています。個人としてできることは限られていても、社会全体がこのテーマに向き合うことで、より良い制度への改善が進むのではないでしょうか。
■ まとめ
基礎年金の底上げは、日本社会における「老後の安心」に直結する重要な政策です。高齢化が進む中で、年金制度の見直しと充実は避けて通れない一方、財源や制度の持続可能性といった課題も伴います。与党内での協議が進む中、国民への説明責任と十分な情報開示が求められています。将来にわたって安心できる社会保障制度を築くために、私たち一人一人が関心を持ち、対話を続けることが大切です。