2024年4月、国税電子申告・納税システム「e-Tax」を悪用して、架空の税金還付金を騙し取ったとして、複数人が詐欺容疑で逮捕されるという事件が大きな波紋を呼んでいます。報道によれば、今回の事件では10人が逮捕され、その内の何人かは若年層で、SNSなどを通じて詐欺へと関与していったとみられています。
本記事では、このe-Tax悪用による詐欺事件の概要、その手口、影響、そして私たちが今後どのようにデジタル制度と向き合うべきかについて、わかりやすく解説していきます。
e-Taxとは？ 簡単におさらい
まず、e-Taxについて簡単に説明しておきましょう。e-Taxは、国税庁が運営するオンラインによる税務申告・納税システムです。従来の紙による申告に代わり、自宅や職場などからインターネット経由で確定申告や納税が可能になり、非常に便利な制度として広く普及しています。
2020年代に入り、政府のデジタル化推進の一環として、e-Taxの使用がさらに推奨されるようになり、多くの納税者がこのシステムを利用するようになっています。
事件の概要：「過年度分の還付」と称して不正請求
今回の事件での最大のポイントは、犯人グループが「過年度分の還付請求」、つまり、過去の年に本来受け取るべきだった税金の還付を、虚偽の内容で申請した点にあります。
捜査関係者によれば、10人の容疑者は、実在する人々の名前やマイナンバーを使って虚偽の確定申告を電子的に提出し、合計で数百万円にのぼる還付金を不正に受け取っていたと見られています。彼らは、複数口座に資金を分散させることで足がつきにくくなるような工作もしていたという情報も報じられています。
不正に使用されたマイナンバーと個人情報
この事件で特に問題視されるのは、他人のマイナンバーや個人情報を使って虚偽の申告を行っていた点です。どうやってそのような情報を入手したのかは現在も調査中ではありますが、SNSやネット掲示板、あるいは闇サイトなどを通じて収集されていた可能性があると報じられています。
マイナンバー制度は、正しく利用すれば行政手続きをスムーズにしてくれる素晴らしい制度ですが、同時に取り扱いには非常に高いリスクが伴うことが今回の事件によって改めて明らかになりました。
SNSが温床に？ 若者を巻き込む新たな詐欺の形
さらに注目すべきは、今回逮捕された容疑者の一部が20代の若者だったという点です。報道によると、SNSを通じて「簡単に稼げる」「税金の制度をうまく活用する方法がある」などと勧誘され、詐欺行為に関与したとのことでした。
こうした手口は、コロナ禍以降に若者の間で広がってきた「SNS詐欺」「副業詐欺」の一環として見られています。特に、アルバイト収入や就職活動が思うようにいかなかった若者が、「楽に稼げる方法」に惹かれてしまう例が増えているのです。
こうした背景を考慮すると、単なる「犯罪者」として処罰するだけでなく、若者がこうした詐欺に引き込まれないような情報リテラシー教育や社会的セーフティネットの整備も重要になってくるのではないでしょうか。
e-Taxとデジタル社会の信頼性
この事件は、e-Taxという便利で信頼性の高いデジタル申告制度に対して、大きな不信感を与えかねません。しかし、制度そのものが悪いわけではなく、それを悪用する一部の人間が問題なのです。
今回の事件を契機に国税庁は、e-Taxのセキュリティ強化や、本人確認プロセスの厳格化などを検討するとみられています。また、自分自身が不正に利用されないよう、「利用者識別番号」や「マイナポータル」などで定期的に自身の申告内容を確認することも重要です。
利用者一人ひとりがルールを理解し、正しく利用することで、e-Taxは私たちの生活を支える強力なツールであり続けることができます。
被害拡大を防ぐために今私たちができること
本事件を受けて、いま私たち一般の市民ができることは何でしょうか？ 以下にいくつかのポイントを挙げます。
1. 個人情報を適切に管理する
マイナンバーはもちろん、銀行口座や住所、電話番号などの個人情報はむやみに他人に教えないよう注意しましょう。詐欺グループはこうした情報をかき集め、組み合わせて犯罪に悪用します。
2. SNSの甘い誘いに注意
SNS上で「簡単に稼げる」「税金制度の裏技にはまるだけ」と誘ってくる話には要注意です。特に、「元手なし」「匿名で大丈夫」といった文言は、ほぼ確実に詐欺や犯罪と直結しているケースが少なくありません。
3. 家族や友人と情報共有を
若年層を中心に詐欺が拡大している今、家族や友人との情報共有も大切です。「こんな話が来たけど、大丈夫かな？」といった相談を気軽にできる関係性が、被害拡大を止める鍵になります。
4. 定期的なe-Taxアカウントの確認
自分のe-Taxアカウントが悪用されていないか、マイナポータルなどを使って定期的にログインして確認しましょう。不審な申告履歴などがあれば、すぐに国税庁へ連絡することが大切です。
まとめ：制度の進化とともに、モラルと監視体制も進化を
e-Taxのような電子手続きシステムは、社会全体の効率化と利便性を大きく向上させる素晴らしい取り組みです。しかし、それに伴って、今回のような悪用事件が発生するリスクも避けられません。
だからこそ、制度の整備と並行して、私たち国民一人ひとりが制度を理解して正しく利用する責任があるのです。また若者が「知らずに犯罪に加担してしまう」ようなことが起きないよう、正しい情報が届き、相談できる環境を整えることが求められています。
安心して使えるデジタル社会の実現に向けて、今回の事件を他人事ではなく、社会全体の課題として真摯に受け止める必要があるでしょう。
