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広がる「賞与の給与化」──安定収入の時代に見直される報酬制度のカタチ

近年、「賞与の給与化」がじわりと広がってきています。これは、「ボーナス」として従来年2回程度支給されてきた賞与が、次第に「毎月の給与に組み込まれて支給される」流れへとシフトしつつある現象です。一部では既にこの仕組みを取り入れている企業もあり、背景には企業の経営スタイルの変化や、労働市場の流動化、そして働き方の多様化など、現代社会が抱える複数の要素が絡み合っています。

本記事では、「賞与の給与化」というトピックについて、背景・メリット・デメリットを整理しながら、今後の働き方や企業選びにおいて、どのような影響を及ぼすのかを考察していきます。

賞与の給与化とは?

「賞与の給与化」とは、本来、年に数回支給される賞与(ボーナス)を、毎月の給与に分割して、定期支給の形にする仕組みです。例えば、年間100万円の賞与を支給していた企業が、それを12ヶ月で分割し、月給に8万3千円程度を加算することで、従業員には「安定的な収入」が保証されるようになります。

従来、日本の雇用制度の多くは「年功序列」「終身雇用」といった堅牢な仕組みに支えられており、賞与は「半年あるいは年間の評価」に基づいて、特別に加算される給与としての位置づけがありました。しかし、近年では雇用の流動化や成果主義の浸透、さらにはテレワークや副業解禁など、労働環境の多様化によって、このような制度にも見直しが迫られています。

給与化が進む背景:企業側の事情

まず、企業側にとっての賞与給与化のメリットは、給与支出の平準化が実現できることです。

賞与は通常、業績連動型の報酬として設計されています。つまり、会社の業績が良い年度は賞与額も増え、業績が悪いと大幅にカットされることも珍しくありません。しかしこの仕組みは、経営上のリスクマネジメントとしては有効である一方で、従業員側には不安定な収入として映りやすく、モチベーションの低下に繋がることもあります。また、月々の人件費は一定であっても、賞与時期には一気に多額の支出が発生するため、キャッシュフローの観点でも悩ましいところでした。

賞与を給与に組み込むことで、企業は人件費管理を月単位で平準化でき、コスト予測が立てやすくなります。加えて、退職金や社会保険の計算基準になる「標準報酬月額」が安定するため、各種コストの計算もしやすくなります。

社員にとってのメリット:安定収入と計画的生活設計

一方、従業員にとっても、一定の賞与が「毎月の給料に組み込まれていること」により、収入のブレが減り、住宅ローンなどの審査にも好影響があります。賞与が大きく変動する職場よりも安定性を感じやすく、ライフプランの設計や毎月の家計管理も容易になります。

また、新たに就職・転職を考える層にとっても、「月収」の記載が実態に即しており、見かけ上の年収や実収入のギャップに戸惑うリスクが減ります。その意味では、「給与の透明性」が高まるとも言えるでしょう。

実際、識者の間でも、若年層を中心に「安定的に賃金が得られる仕組み」を評価する声が出ており、短期的なインセンティブよりも、長期的な安定性を求める傾向はますます強まっています。

不安や懸念:成果主義やモチベーション維持への課題

一方で、「賞与=成果報酬」という側面から見ると、賞与の廃止や給与化には懸念の声もあります。特に、営業職など個人の成績が明確に数字で表れる職種の場合、半年間または年間の努力が「賞与金額」として反映されることで、明確な評価の機会として機能してきました。

それが「月給に含まれた一律の支給」となることで、「成果に応じた報酬」というインセンティブ要素が薄れ、「頑張ったのに報われない」「成績が良くても給与が同じ」といった不満が生じかねません。また、人事評価のフィードバック機能そのものが弱まるという懸念も挙げられています。

そのため、賞与を給与化する場合でも、一部の「業績連動型手当」や「インセンティブボーナス」といった報酬制度を並行して導入することで、その不満を緩和する動きも見られます。

実際の動向と今後の展望

日本経済新聞の記事や厚生労働省の労働関連調査によると、賞与給与化は大企業やIT・ベンチャー系企業を中心に、徐々に増加しています。特に人材獲得競争が激しくなっている中小企業では、「年収の見えやすさ」「給与の分かりやすさ」が人材定着や採用の鍵となっており、賞与給与化はそのなかでも有効な手段と見られています。

また、賞与の支給額は企業業績や景気に大きく左右されるため、不安定な経済状況のもとでは、そもそも「確約されない賞与」への依存度を下げるという狙いもあります。

一方で、製造業など伝統的な大企業や、労働組合との交渉が重要となる業種においては、今なお「賞与=評価=対話の場」としての意味合いが強く、制度変更が容易でないケースもあります。

多様な働き方が模索されるなかで、「賞与そのものをなくす」方向ではなく、「賞与を一部給与化し、残りを新たな手当で補う」「月給ベースを上げ、代わりにボーナスを年1回に調整する」といった、企業ごとの柔軟な対応も広がっています。

私たちはどう向き合うべきか?

働く側としては、「賞与の給与化」を単なる「損得」だけで見るのではなく、より長期的な視点で「自分のキャリアにとって、どんな報酬制度が望ましいのか?」を検討することが大切です。

安定性を重視し、育児や住宅ローン、老後資金といったライフプラン設計を重く捉えている人にとっては、月収の増加は大きな安心材料になります。逆に、「短期的な成果報酬で大きく稼ぎたい」という野心的な成長志向を持つ方にとっては、従来型の賞与制度の方がモチベーション維持につながるかもしれません。

大切なのは、自分の働き方・価値観に合った環境を見極める目を養うことです。そして、転職や就職を考える際には、「年収いくら」という表面上の数値だけでなく、「内訳をどう形成しているのか」という点も確認することが、納得のいく職場選びに繋がります。

まとめ

「賞与の給与化」は今後、ますます広がる可能性があります。それは企業だけでなく、働く私たち一人ひとりが「安定と成果評価のバランス」を模索しながら、より自分に合った働き方を選んでいくためのきっかけとなるでしょう。

時代の変化に伴い、労働環境や報酬制度も柔軟に変化していくことが求められており、その中で自分自身の価値をどう高め、どのような報われ方を望むか——。そうした問いに、しっかりと向き合っていく時期が来ているのかもしれません。