漫才界の“遅咲きの異端児” 〜70代コンビ THE SECOND挑む訳〜
かつて「お笑いの世界」と言えば、若さと勢いが何よりの武器とされていました。しかし、時代は変わり、年齢問わず誰もが活躍の可能性を持つ、新しい多様性の時代に突入しています。その流れを象徴するような出来事が、2024年の『THE SECOND~漫才トーナメント~』にあります。今年、この舞台に70代の漫才コンビ「中津川弦(なかつがわ げん)」「じゅんごん」こと『中津川弦とジュンゴン』が挑むことになりました。その背景には、年齢を超えた情熱と、お笑いに対する信念が息づいています。
“結成16年以上”の〝漫才師〟の祭典「THE SECOND」
『THE SECOND~漫才トーナメント~』は、若手の登竜門であるM-1グランプリとは一線を画す大会です。「芸歴16年以上」の芸人たちが対象で、すでにベテランの域にあるコンビたちが青春を取り戻すかのように、真剣勝負を繰り広げる場所です。このコンテストの誕生により、「売れるためには若さがすべて」という価値観に風穴を開け、キャリアを積んだ芸人たちが再び脚光を浴びる機会が生まれました。
2023年の初開催では、お笑いコンビ「ギャロップ」が初代王者に輝いたものの、多くの出場者が語ったのは「もう一度、自分たちの漫才を見てもらう機会が欲しかった」という思い。この大会には、優勝そのもの以上に、再出発やリベンジの意味合いを強く感じさせる何かがあります。
そこに、70代のコンビが挑むというニュースは、多くの人々に驚きと感動を与えました。
“中津川弦とジュンゴン”の素顔
注目の70代コンビ、通称「中ジュン」こと『中津川弦とジュンゴン』は、まさに異色の存在です。中津川さんは71歳、ジュンゴンさんは71歳。ともに東京NSC(吉本総合芸能学院)東京校の1期生で、1995年に卒業後、それぞれの道を歩んでいました。しかし、若い頃に芸の道を断念した中津川さんが70代になって再びお笑いの世界に戻る決断をし、ジュンゴンさんとコンビを結成したのは、まさに人生の再スタートのようなものです。
「自分の人生にもう一度火を灯すような気持ちだった」と語る中津川さん。年齢を経ても失われない表現への情熱。そして誰よりもお笑いを愛する心が、今回の挑戦へと彼らを導いたと言っても過言ではありません。
再スタートを切る理由は「今やらなければ一生後悔する」
高齢だからといって、情熱が冷めるわけではありません。むしろ、自分の残された時間の中で本当にやりたいことに向き合おうとする意思は、若い人たち以上に強い輝きを放っています。
インタビューの中で中津川さんは、「これが自分の人生で最後の挑戦になると思っています」と語っています。そしてその挑戦の場として『THE SECOND』を選んだのは、自分と同じように日陰で長年努力してきた芸人たちが再評価されるこの舞台だからでした。これは「勝ちたい」「目立ちたい」ではなく、「今、自分にできることを精一杯やる」という、崇高な目的を持つ挑戦です。
そして一緒に舞台に立つジュンゴンさんの想いもひときわ深く、「年を重ねたことで、表現できる言葉や間合い、空気感が磨かれた」と語っています。長年の人生経験が、お笑いというフィールドで新たな形となって発揮されているのです。
年齢はただの数字 ―「むしろ年を取ってからの漫才は味がある」
年齢を重ねることで、人生の悲哀や喜び、孤独や希望といった、様々な感情をより深く表現できるようになります。若い頃にはできなかった心の機微が、自然と漫才の台詞や間に滲む。これこそが、「中ジュン」が持つ芸人としての最大の個性であり、深みです。
音楽の世界でも、画家の世界でも、50代、60代から名を成す人は数多くいます。お笑いの世界においても、年齢を問わず味のある芸人が再評価される時代が訪れつつあります。この“人生経験”という名の財産は、若さにはない魅力なのです。
『THE SECOND』という舞台が持つ大きな意義
中ジュンの挑戦は、個人の話にとどまりません。それは同様に「今さら何かを始めても遅い」と感じている中高年層へのメッセージでもあります。
「いくつになっても夢を叶えられる」「一歩踏み出す勇気が、新しい道を開いてくれる」
そんな希望を与える出来事として、多くの人々の心を震わせているのです。特に、子育てや介護、仕事の節目など、人生の転換期に立たされている世代にとって、中ジュンの挑戦は「生き方を問い直す」ようなインパクトを持っています。
また、若い世代にも、「情熱に年齢は関係ない」という普遍的な価値観を提示してくれる大きな存在となっており、彼らが放つ言葉や表情には、老いや時間の“負”の側面ではなく、“経験”や“深み”といった豊かな資源が感じられます。
最後に
70代の漫才コンビ『中津川弦とジュンゴン』が、2024年の『THE SECOND~漫才トーナメント~』に挑むことは、お笑い界にとっても、私たち一人ひとりにとっても、大きな意味を持つ出来事です。決勝進出や優勝といった「結果」以上に、彼らが放つメッセージこそが、多くの人々の心を打ちます。
「人生、いつからでも再スタートできる」
その言葉を、70代の芸人が真っ正面から体現してくれることで、私たちの固定概念も少しずつほぐれていくのかもしれません。この挑戦が、少しでも多くの人々の背中を押し、新たな一歩を踏み出すきっかけになることを願ってやみません。