政府、106万円の壁の廃止法案を閣議決定 ― 働き方や家計に大きな影響も
2024年6月4日、政府は「106万円の壁」の撤廃に関する法案を閣議決定しました。この法案はパートタイム労働者や短時間勤務者などを対象に、働き方の制限を緩和し、就労意欲を高めることを目的としています。近年、労働市場の多様化や人手不足への対応が求められる中で、「年収の壁」という制度が持つ影響に社会的な関心が高まっていました。法案の閣議決定は、こうした背景を踏まえた重要な一歩と言えるでしょう。
本記事では、「106万円の壁」撤廃の背景やその内容、今回の法改正が私たちの生活にどのような変化をもたらすのかを詳しく解説します。
■ そもそも「106万円の壁」とは?
「106万円の壁」とは、パートや派遣など非正規で働く人々が年間労働収入106万円を超えた場合に、厚生年金など社会保険の加入義務が生じる制度上の壁のことを指します。社会保険に加入することで将来の保障は手厚くなりますが、月々の保険料負担が発生し、手取り収入が一時的に減るケースもあるため、多くの人々が「106万円を超えないように勤務時間を調整する」といった行動を取る傾向がありました。
また、企業には社会保険の適用対象となる従業員を雇用する場合、保険料の一部を負担する義務があります。そのため、一定規模以下の企業では労働時間や契約形態を調整して「106万円の壁」を回避するような雇用管理が行われてきました。これが結果として、労働意欲の抑制や人手不足の助長につながっていると指摘されてきました。
■ なぜ今、「壁」の撤廃なのか?
日本社会は少子高齢化の進行により労働力不足が深刻になっています。とくに小売業やサービス業、介護・医療現場などでは人手が足りず、既に多くの職場が「人を確保できない」という問題に直面しています。その一方で、働きたいという意欲を持ちながらも「年収の壁」により働ける時間を制限している人たちも少なくありません。
そこで政府は、「働きたい人が、より多く働ける環境づくり」が重要であると判断し、この度106万円の壁を実質的に廃止する法案を提出・閣議決定しました。これにより、非正規労働者の就労調整が減り、労働力人口の増加につながると期待されています。
■ 法案の具体的な内容は?
今回の法案では、パートタイムなど短時間労働者の厚生年金・健康保険の加入条件を見直し、「106万円の壁」が撤廃されると共に、社会保険加入による保険料の負担が急増しないように、段階的な支援策も導入されるとのことです。
主なポイントは以下の通りです:
1. 年収制限によらない社会保険加入の仕組みへ一部変更
2. 中小企業の事業主への保険料負担に対する支援措置
3. 労働者本人への税制上の支援も検討中
4. 若年層や女性の労働参加を後押しする仕組みづくり
これまでは、年収や労働時間、企業規模などの条件によって社会保険の加入対象かどうかが決まっていましたが、今後はその条件が大幅に緩和され、より多くの人々が柔軟に働ける制度へと変わっていくことになります。
■ 働く人々への影響は?
「106万円の壁」が撤廃されることで、これまで働く時間を意図的に抑えていた人たちが、その制限から解放され、「もっと働きたい」「働けるときにしっかり働きたい」と思えるようになります。例えば、子育て中の主婦やダブルワークをしている方々にとって、「年収制限を気にせず働ける」ことは大きなメリットになるでしょう。
また、社会保険に加入することで、医療費の自己負担が軽減されたり、将来的な年金の受給額が増えるなど、長い目で見ると多くの恩恵があります。もちろん、一定の保険料負担は避けられませんが、それを補助する仕組みの導入で、トータルの安心感が高まるのではないでしょうか。
■ 雇用主にとっての課題と期待
企業側にとっては、社会保険の適用拡大は一時的にはコスト増につながります。特に中小企業ではこの影響が大きいため、政府は保険料の一部負担を軽減する措置や助成金の設定を検討しています。
一方で、これによって労働力を安定的に確保できるようになり、長期的には業務の効率化や社員の定着率向上につながる可能性もあります。とくにサービス業や販売業、介護分野など人手不足が深刻な業界では、新たな働き手を確保するための後押しになると期待されています。
■ 今後の社会全体への影響は?
第二次ベビーブーム世代の多くが定年退職を迎える中、社会全体で労働人口の維持・拡大に向けた取り組みは急務とされています。今回のように、「働きたいのに制限されていた」人々を労働市場に巻き込むことで、労働力の有効活用が可能になります。
加えて、多様な働き方を推進する中で、性別や年齢、雇用形態にかかわらず、すべての人が公平に働ける社会へと近づいていくことも期待されます。雇用の流動性が高まり、職場の多様性が進むことで、より柔軟で豊かな労働環境が整う可能性があります。
■ まとめ:変化はチャンス、今後に向けて
「106万円の壁」の廃止は、制度的には小さな変更に見えるかもしれませんが、働く人の心理や社会全体の労働構造に大きな影響を与える改革です。制限があったことで行動を抑制されていた人々が、本来の意欲や能力を発揮できる場が広がることは、私たち一人ひとりにとっても社会全体にとっても、大きな前進となるはずです。
これからは、「どれだけ収入を抑えるか」ではなく、「安全に、安心して働けるにはどうすればいいか」を考える時代になるでしょう。私たちにとっても、将来の自分や家族の生活を見据えて、「働き方」を柔軟かつ前向きに見直す良い機会となりそうです。
今回の改正をきっかけに、より多くの人が働く楽しさややりがいを再発見し、健やかなライフスタイルを築いていける社会へ進んでいくことを期待したいと思います。