近年、日本経済が直面するさまざまな課題の中でも、「賃上げ」は特に注目されるテーマの一つです。物価の上昇や人手不足、さらには国民の将来不安など、多くの要因が複雑に絡み合う中で、政府も賃上げの促進に向けた方針を打ち出しています。2024年6月4日、政府は実質賃金のプラス成長を実現するべく、「実質1%の賃上げ」の定着を目指す考えを示しました。本記事では、この政府方針の背景や課題、そして今後の展望について掘り下げていきます。
なぜ「実質賃上げ」が必要なのか?
「実質賃上げ」とは、賃金の上昇率が物価の上昇率(インフレ率)を上回り、労働者の購買力が実質的に上がることを意味します。名目賃金がどれだけ上がっても、同時に物価がそれ以上に上昇していた場合、私たちの生活に直接的なプラスの効果は見込めません。むしろ、「生活が苦しくなった」と感じる方も少なくないはずです。
近年、日本では長らく「デフレマインド」が根強く残っており、物価が上がりにくいことが一つの特徴でした。しかし、世界的な原材料価格の高騰や円安の影響、さらには物流・人件費の上昇などにより、物価は徐々に上がりつつあります。その中で賃金が停滞・伸び悩んでいる現状では、実質的な可処分所得は減少傾向にあるのが現実です。
こうした背景から、政府としても「実質1%の賃上げ」を成長戦略の一環として定着化し、国民の生活の質を維持・向上させたいと考えています。
成長戦略に賃上げを盛り込む意義
政府が今回発表した2024年度の経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)には、「実質1%以上の賃上げの定着」が明記されました。これは単なる給与支給額の引き上げではなく、生産性を向上させ、企業の収益拡大とともに、労働者への適切な分配を図ることを目的としています。
また、物価とのバランスを取りつつ、安定的な実質賃金の増加を目指す戦略は、日本経済の持続的な成長に寄与すると考えられます。消費の拡大が生産の拡大を促し、それがまた雇用や給与水準の上昇につながるという「良循環」を作ることが大きな狙いです。
しかし、これは掛け声だけで実現できるものではありません。中小企業の賃上げ余力、人手不足、業種間格差など、現実的な壁が多数存在しており、それらをどう乗り越えていくかが重要な観点となります。
企業への期待と支援策
政府は賃上げ実現に向け、企業へのさまざまな支援策を推進しています。特に中小企業に対しては、補助金や税制優遇措置によって賃上げを後押しする方針が打ち出されています。また、労働生産性の向上に繋がるIT投資やデジタルトランスフォーメーション(DX)、業務効率化支援も重要な柱として位置付けられています。
こうした支援が各企業の実情に即して実施されていくことで、条件の厳しい中小企業においても賃上げが現実的かつ継続的に行われることが期待されます。
また、企業も従業員の生活を支える重要な責任の一部を担っており、単なるコストとしてではなく、将来の企業競争力を高めるための「人材への投資」として人件費を見直す必要があるといえるでしょう。
労働者の側でも求められる意識改革
一方で、賃上げの実現には労働者側の努力も必要です。生産性向上のために自らスキルアップを図り、新たな働き方や技術の習得に取り組むことが求められます。働く人々がより高い付加価値を生み出すことができれば、企業もそれに応じた報酬を与えやすくなり、結果として実質賃金の上昇に繋がります。
また、雇用の流動性が高まりつつある現代では、同じ企業に長く勤めることだけが唯一のキャリアパスではありません。自分の市場価値を見極める姿勢も重要になってきています。
制度改革との連携も鍵に
政府の取り組みにおいては、単なる賃上げ政策にとどまらず、育児支援・教育機会の拡充・再就職支援など、生涯にわたる生活を支える制度改革との連携も強く意識されています。働きながら育児を担う世代へのサポート強化やジェンダー格差の是正といった施策は、安心して働き続けられる環境づくりに直結しています。
また、地域間・業種間の格差是正といった観点からも、労働移動支援策や働き方の多様化を後押しする内容が盛り込まれており、これまで取り残されがちであった層への支援も強化されるようになっています。
今後の展望と私たちにできること
政府が掲げる「実質1%の賃上げ」の実現には、多くの関係者が連携しながら一歩一歩着実に取り組んでいく必要があります。企業、行政、そして働く一人ひとりがそれぞれの角度からその目標に向かって行動を起こしていくことが求められています。
私たち個人としても、与えられた環境の中でスキルアップを図ったり、職場での生産性を意識した行動を心がけることで、経済全体の活性化に間接的にでも貢献できる可能性があります。また、社会全体で「働くことの価値」や「生活の豊かさ」について改めて考えるきっかけともなるでしょう。
まとめ:持続可能な経済成長に向けた鍵は「人」にある
政府が進める「実質1%の賃上げ」の定着は、日本経済の持続可能な成長を目指すうえで極めて重要な施策です。単なる数字の引き上げではなく、働く人々の生活の質を高め、生きがいある社会を築くためのステップでもあります。
人口減少や高齢化といった構造課題が進む日本において、「人への投資」はこれまで以上に重要な意味を持っています。今こそ、政府と企業、そして私たち一人ひとりが力を合わせ、新たな未来を切り拓いていく時なのかもしれません。
引き続き、経済政策や賃金動向に目を向けながら、私たち自身の働き方や暮らし方を見つめ直していくことが大切です。