近年、日本社会はさまざまな経済的課題と向き合ってきました。物価の上昇、将来不安、そして収入の停滞。そうした環境の中で、家計に対する意識の変化が徐々に現れています。そんな中、注目を集めているのが、ある調査結果――「貯蓄は増えている一方で、夫のおこづかいは横ばいである」というテーマです。これは一見矛盾しているようにも見えますが、深く掘り下げてみると、現代の家庭事情や働き方、生活スタイルの変化が浮き彫りになります。
今回ご紹介するのは、SMBCコンシューマーファイナンスが実施した、全国20歳〜59歳の既婚男女を対象とした「サラリーマンのおこづかい調査2024」に関する報告です。この調査結果は、2024年6月6日にYahoo!ニュースで取り上げられ、多くの読者の関心を集めました。
おこづかい平均額は横ばい、しかし…
調査によると、夫の1か月の平均おこづかい額は37,111円となっており、前年と比べても横ばいという結果になりました。過去と比較すると、バブル期には5万円を超えることも珍しくなかったおこづかい額。しかし、ここ数年は3万円台後半が定着しており、その流れは2024年も続いていることが分かります。
一方で、家庭の貯蓄額についても調査が行われ、1か月あたりの平均貯蓄額は39,191円と、前年の31,847円から約7,000円も増加していることがわかりました。つまり、貯蓄に回す金額は順調に上昇しているのに対し、おこづかいは据え置かれているという状況です。
生活費の高騰という背景
では、なぜ貯蓄が増えているにも関わらず、おこづかいは増えないのでしょうか。その背景には、生活費の高騰があります。電気代やガス代、食料品の価格が相次いで上昇していることは、日々の買い物からも実感されている方が多いのではないでしょうか。家計全体の支出が増えたことで、自由に使える部分は慎重にならざるを得ないというケースも多いようです。
また、今後の生活に対する不安も、おこづかいを抑える要因になっていると考えられます。特に、老後資金や子どもの教育費に関する心配は尽きず、家計の見直しを余儀なくされる家庭も増えています。無駄な支出を減らし、将来に備えたいと考える傾向が一層強まっているようです。
夫たちの本音とストレス
おこづかいが横ばいのままでは、夫たちは窮屈な生活を送っているのではと心配する声もあります。調査結果でも、「おこづかいが足りない」「もっと趣味や交際に使いたい」といった声が少なくありませんでした。
とくに40代以上のサラリーマン層では、「職場での飲み会や付き合いを断るようになった」「昼食はコンビニのおにぎり1個」といった節約術を駆使して日々を乗り切っているとの証言も挙がっています。こうした状況は、心の健康や職場での人間関係にも影響を与える可能性があります。
ただし、一方で「必要なものにだけ使えれば十分」と考える堅実な男性も増えています。スマートフォンの普及により、娯楽や情報へのアクセスが無料または低コストで可能になった現在、出費せずとも満足できる時間を過ごせるという声もあります。
家庭内コミュニケーションの重要性
おこづかいの金額は、家計のバランスシートの一部であるとともに、「家庭内の経済に対する意識の象徴」とも言えます。夫婦間での協力や理解があってこそ、おこづかいの適正化や貯蓄の増額が実現できるのです。
また、共働き世帯の増加によって、家計の管理方法そのものにも変化が見られます。夫婦で収入を比較的平等に担っている場合は、おこづかいも互いに取り決めるスタイルが多くなりつつあります。こうした中で、家計の全体像を見渡しながら、「いかに無理なく共に豊かに暮らせるか」というテーマに向き合うことが求められています。
コロナ以降のお金の使い道にも変化
コロナ禍をきっかけに、人々の生活スタイルは大きく変わりました。外食や旅行の機会が減少し、お金の使い道も見直されました。在宅時間が増える中で、家の中でできる趣味や学習への投資が高まり、「質の良い過ごし方」を求める動きが生まれています。
2024年の現在も、その傾向は続いていると見られており、「おこづかいは少なくても満足」だと感じる人が一定数いることも、今回の調査から読み取ることができます。収入額ではなく、支出のバランスを重視する「お金の価値の再評価」が進んでいると見ることもできるでしょう。
まとめ:限られた金額で、豊かな時間を
おこづかいというと、自由に使える「自分だけのお金」として魅力的な響きがあります。しかし、家計とのバランス、将来への備え、そして家族との関係性の中での位置づけを考慮したとき、その意味はずいぶんと変わってきます。家庭内での対話を重ね、互いに理解し合える関係を築くことが、最も健全な「おこづかいのあり方」を支えるのではないでしょうか。
今後も経済情勢や生活スタイルは変化していきます。だからこそ、大切なのは「お金の額」だけでなく、それをどう使い、どう備え、どう生きるかという視点。おこづかいは、その入口として、私たちの生活を見つめ直すきっかけになるものなのかもしれません。