農業の現場からの声:「コメ決して高くない」 JA全中会長の訴え
2024年6月、JA全中(全国農業協同組合中央会)の中家徹会長が記者会見で発言した「コメは決して高くない」という言葉が、各方面で注目を集めています。消費者にとって身近な食材であるお米ですが、販売価格と生産コスト、そして農業従事者の実情との間には大きな乖離があることが、この一言に象徴されています。
この記事では、中家会長の発言の背景にある日本の米事情、価格形成の仕組み、農家が直面する課題と、私たち消費者が知っておくべきことについて掘り下げていきたいと思います。
コメは「高い」のか? 価格の実際
「最近、スーパーで買うお米が高くなった」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、中家会長の見解は明確です。「米の価格は決して高くない」。その根拠は、農家が稲を栽培し、収穫し、精米され、店頭に並ぶまでにかかる膨大な手間・時間・コストを考えれば、現在の米価はむしろ低すぎるとすら言えるからです。
実際、2023年産の主食用米の価格は、コロナ禍による需要減少を受けた過去の価格からは一定の回復基調にありますが、それでも生産コストを十分にカバーできる水準にはなっていません。JA全中によると、2023年産の主産地平均での60キロ当たりの価格はおよそ13,000円台で推移していますが、今の物価高、資材費の高騰、燃料や人件費の上昇を勘案すると、これでは農家が安心して米作りを続けられる体制とは言えません。
生産者視点から見る米づくりの厳しさ
米作りには長い工程と多くのコストがかかっています。春先の田起こしや田植えに始まり、管理作業、夏場の病害虫対策、そして秋の収穫…。一連の作業には機械の使用が必要であり、その燃料代やメンテナンス費用も年々上がっています。また、肥料の原料価格も国際情勢に伴い高騰しており、農家はその負担を一手に背負っています。
加えて、高齢化と担い手不足も深刻です。多くの農家では後継者が見つからず、生産意欲は後退傾向にあります。そんな中でも毎年同じように私たちの食卓にお米を届けようと営農を続ける農家の努力は、まさに「使命感」とも言えるものです。
「適正価格」の理解の重要性
中家会長は、「米に対する理解を深めてほしい」とも訴えています。この背景には、消費者が価格に対して「高い」という印象を持ちすぎている現状に対する問題意識があります。
例えば、60キロの玄米が約13,000円ということは、10キロ換算で2,000円程度の価格です。精米ロスを含めても、店頭価格で10キロ3,000円前後というのが相場ですが、1食分(お茶碗一杯)にするとコストはわずか20~30円程度。これだけの栄養と満足感を与えてくれる食材が、実は非常にコストパフォーマンスに優れていることに改めて気づけます。
さらに、海外と比較しても日本の米の価格は際立って高いというほどではなく、品質、安全性、安定供給体制を考慮すると「妥当」または「割安」と考える見方もあります。
農業を支える選択を
私たち消費者一人ひとりが、国内農業を支える立場にあることを忘れてはなりません。スーパーで米を買う際、「少しでも安いものを」と選んでしまう気持ちは理解できますが、その選択が回り回って生産者の経営を圧迫し、国内農業の衰退に繋がる可能性もあるのです。
中家会長が「価格は高くない」と語ったのは、農家の苦しさ、そして米という作物の価値に対する広い理解を促すための発言でもあります。物価高が著しい昨今ではありますが、真に価値あるものに対して適正な価格を支払う姿勢こそが、持続的な農業と安心・安全な食の供給を支える鍵となります。
消費者・生産者・流通がつながる社会へ
日本の農業を守るためには、消費者だけでなく、行政、流通、メディアなどあらゆる関係者の協力が不可欠です。そして、私たち一人一人が「なぜこの価格なのか」「誰が、どんな思いでこの商品を届けてくれているのか」といった背景に思いをはせることで、見えなかった価値が浮かび上がってきます。
JA全中のような組織や農家の声に耳を傾け、「買い支える」意識を持つことで、わたしたちの食卓は今後も豊かで安全なものであり続けるでしょう。
終わりに
「コメは決して高くない」という言葉は、単なる価格の問題を超えて、日本の食と農の未来に向けた重要なメッセージです。豊かな自然と長年培われた技術に支えられてきた日本の米づくり。それをこれからも享受していくために、私たちは消費者として、生活者として、どう向き合っていけばよいのかを考える時かもしれません。
一杯のご飯に込められた努力と情熱を知ることから、未来の農業への希望が広がっていくと信じています。