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過去最大の「稼ぐ力」──経常黒字30兆円突破が映す日本経済の現在地と課題

2023年度の経常黒字、30兆円超えで過去最大に —— 背景と今後の展望

2023年度、日本の経常収支が30兆円を超え、過去最大を記録したことが財務省の発表により明らかになりました。国全体の経済の実力を図る上で非常に重要な指標のひとつである経常収支が、1年間でこれほどの黒字を計上したことは、国際収支における日本の地位や、企業の国際競争力、そして個人や企業の資産運用動向を反映しているといえます。

今回は、この経常収支黒字の要因となった具体的な背景を探るとともに、その影響や今後の見通しについて、一般の方にも分かりやすく解説していきます。

経常収支とは?簡単におさらい

そもそも「経常収支」とは何を意味するのでしょうか。これは、モノの輸出入やサービス取引、そして海外からの利子・配当といった第一次所得収支などをひとまとめにして集計した国際収支の一部です。

経常収支は、以下の3つの要素で構成されています。

1. 貿易収支(輸出-輸入)
2. サービス収支(旅行や輸送、知的財産使用料など)
3. 第一次所得収支(海外からの投資収益など)

この経常収支が黒字というのは、簡単に言えば「日本がお金を稼ぎ、海外から多くの資金を得ている」ということを意味します。経常黒字は国際的な信用の高さや、国内産業の競争力の高さを示す指標とも言えます。

過去最大となった黒字額:その背景とは?

今回、2023年度の経常黒字が30兆6509億円に到達し、1996年度以降で最大となりました。これには、複数の要因が重なって影響していると考えられます。以下にその主な背景を整理してみましょう。

1. 投資収益の増加――第一次所得収支が大きく貢献

今回の経常黒字の最大の要因となったのが、「第一次所得収支」の増加でした。これは、企業や個人が海外に持つ株式・債券、不動産などへの投資から得られた配当や利子、賃貸料などを指します。

日本は長年にわたり対外純資産国としての立場を築いており、世界でも有数の「カネの貸し手」として知られています。このため、海外での投資による収益が非常に高く、本年度は特に円安の影響により、海外から得た収益が円換算で膨らみました。

2. 円安の進行という追い風

2023年度は円安傾向が続きました。為替相場では1ドル=140〜150円台と、前年度よりも円安が進んでおり、これはドルなどの外貨で得た収益を円に換算する際に増えるという効果をもたらしました。

たとえば、100ドルの配当金を得たとして、1ドル=100円のときに換算すると1万円ですが、1ドル=150円なら1万5000円になります。このように、円安は海外から得られる収入を増やす方向に働き、全体の経常黒字に大きく寄与しました。

3. エネルギー価格の落ち着きと輸入額の減少

2022年度は、ロシア・ウクライナ情勢の影響などによりエネルギー価格が高騰し、日本は多くの石油や天然ガスを輸入していたことから、貿易収支が大幅な赤字となりました。しかし、2023年度にはエネルギー価格がやや落ち着きを見せ、輸入金額も減少したことで、貿易収支の赤字幅が縮小しました。

また、国内経済活動も円安に支えられながら回復していることから、輸出企業の業績が改善し、貿易収支にも一定のプラス効果がありました。

このような複合的な要因が重なり、結果として過去最大の経常黒字という記録を生むに至ったのです。

経常黒字がもたらすもの:良い面と課題

経常黒字が過去最大を記録したということは、いわば「日本が世界から効率よく資金を得られている」ということを示しています。このこと自体は、経済的には喜ばしいニュースであり、日本の企業や投資家の国際的な競争力を示す証とも言えるでしょう。

しかし、その一方で注意すべき点もあります。

まず、日本の稼ぎの多くは「モノを売る」よりも「投資で収益を得る」構造になってきているということです。モノづくりを通して稼ぐ従来のスタイルから、投資からの収益に頼る構造に変化しつつある背景には、企業のグローバル展開、国内消費の伸び悩み、高齢化社会の進行など、さまざまな要因が絡んでいます。

また、円安の影響による一時的な黒字である可能性もあります。円安は輸出企業には追い風になりますが、輸入コストの上昇や、日常生活における物価高などを招く側面もあります。特に、エネルギーや食料などを海外に頼る日本にとっては、為替動向の影響を受けやすく、生活者にとっては手放しで喜べることばかりではありません。

今後の展望と私たちにできること

経常収支の黒字が続くことは、国の経済的な持続力や信用度を示すうえで非常に重要です。しかし、その中身を注意深く見ると、変化する世界経済の動きや、日本経済が抱える長期的課題と向き合う必要も感じさせられます。

投資による収益に依存する傾向が強まる中、企業の生産性向上や、新たな付加価値を生み出す産業の育成など、構造的な経済強化が求められています。また、一人ひとりの生活にも、為替の変動や物価高の影響が及んでいることを踏まえ、マネーリテラシーを高めたり、家計を見直したりすることが大切になってきます。

経常黒字という言葉だけでは見えにくい実態。その中には、日本がこれまでに築いてきた投資力や企業力が映し出されていると同時に、これからの課題や戦略の方向性も秘められています。

今回の記録的な黒字を「単なる数字」として捉えるのではなく、日本の現在地を示すひとつの指標として前向きにとらえ、今後の経済や自らの生活設計にどう生かしていくかを一緒に考えていけたらと思います。

まとめ

・2023年度の経常収支黒字は約30兆6509億円で、過去最大となった
・最大の要因は、海外投資からの収益増と円安の影響
・エネルギー価格の落ち着きも貿易収支の改善に寄与
・今後は「投資で稼ぐ」時代への対応と生活への影響をどう考えるかがカギ

これからも、私たちの毎日の生活と直結する日本経済の動きに、関心を持ち続けることが大切です。経済の基本的な仕組みを理解し、賢く行動することで、未来に向けた選択肢もきっと広がっていくことでしょう。