2024年6月24日、主要メディアが一斉に報じたのは、2008年のリーマン・ショック後不在だった“経済事件の象徴”とも言える逮捕劇だった。「預かり資産10億円」「2000人を超える契約者」「都市開発支援を名目にした資金提供の求め」――これは一見すると、再開発を通じて地域復興に貢献しようとした社会起業家の物語に見えるかもしれない。しかし、その裏で動いていたのは、高利回りの配当と返済不能の借入れによって形成された壮大なピラミッド型の資金詐取ビジネスだった。
今回、大阪府警に詐欺容疑で逮捕されたのは、実業家・福田眞理子容疑者(41)。彼女の会社は、SNSやセミナーなどを通じて全国規模で出資者を集め、町おこしや「地域活性化プロジェクト」と称し10億円以上もの資金を調達していたとされる。企業名は「ジョイント・キャピタル合同会社」。「未来の都市像を描く」「市民参加型開発」といった耳ざわりの良い理念のもと、大阪市内だけでなく兵庫・京都・奈良など広域にわたる都市計画に関わる“資金集め”を行っていた。その手法はSNSによる勧誘、口コミによる拡散、サロン形式イベントによる信頼醸成と、現代の詐欺類型のテンプレートに酷似していた。
福田容疑者は一体、どのような人物だったのか。10年ほど前まではファッション業界に関わる仕事をしていたという。大阪市内の私立高校を卒業後、短期大学に進学。卒業後は商社系企業に一時在籍した後、個人事業としてアパレル商品のEC販売に着手。初期は成功を収め、SNSマーケティングに特化した“女性起業家”としてメディアに取り上げられることもあった。
しかし、2015年頃より都市開発・地域振興に関心を強め、地方創生関連のセミナーに登壇するようになる。このあたりから、不動産投資や資金調達に関する勉強会を自ら主催。やがて「市民ファンド型の協同投資」を提唱し、投資家を募っていく形にシフトしていった。
まさに“夢ある女性起業家”と讃えられてきた福田容疑者だが、その背景には、厳しいキャッシュフロー状況や過去の赤字事業の穴埋めという現実もあったと捜査関係者は見ている。今回の詐欺疑惑事件で特に注目を集めているのは、形だけで存在していたとされる地域開発プロジェクトの数々。兵庫県姫路市の再開発として提示された案件に関しては、プレゼン資料に「行政からの支援要請あり」「地元住民との協議済み」など記載されていたにもかかわらず、実際には許認可も交渉も存在せず、都市計画図も他のプロジェクトから流用されたものであったという。
「地方創生」「市民の利益」「高齢化に対応する住宅の再整備」こういった耳ざわりの良い言葉とともに高利回りを約束された出資者たちは、セミナーやSNSのライブ配信で「わたしたちの未来を変える」と熱く語る福田容疑者に心を預けていった。被害者の中には、年金を前借りし出資に応じた70代女性や、子供の学費を賄うために貯めた500万円を全て投資に回した家庭もいた。
一方で注目すべきは、投資集団は「出資者との距離感が極端に近かった」点だ。福田容疑者自身がSNSにおいて頻繁にライブ動画を更新し、「これはわたしたちのムーブメントであり、あなた達が支え手」と鼓舞。参加者が“投資家”というより“共同体の仲間”のように錯覚させる心理的手法が重視されていた。いわゆる“信者ビジネス”と呼ばれるそれである。
しかし、やがて資金繰りが悪化。新規出資で旧出資者への配当や返済を補填する、いわゆるポンジスキームの様相を呈し始める。2023年末頃から「配当が遅れる」「連絡が取れない」という声がSNSでちらほら出始め、今年5月には複数の出資者が大阪府警へ被害を届け出ていた。
福田容疑者の逮捕へとつながったのは、兵庫県出石市での再開発案件に出資した40代夫婦の証言だったという。「この町に活気を戻すための一助になるならと思った。彼女のプレゼンには人を惹きつける力があった。でも、我々が出資した後、何の動きも無く半年が過ぎ、不安になって彼女に連絡しても曖昧な返事しか返ってこなかった」。その後、同様の証言が相次ぎ、警察の捜査が一気に本格化していった。
現代では、表層の“きらびやかさ”に惑わされるリスクが非常に高い。SNSでのビジュアル演出やアピールは容易であり、あたかも夢のようなプロジェクトが進行中であるかのように演出することは、技術的にも費用的にも以前よりも格段に軽い。福田容疑者の案件も、まるでベンチャー起業家の夢の旅のように語られていたが、それが“虚構”に基づいていたとすると、そこにあったのは「人の善意」を利用した重大な裏切りである。
今後の捜査で被害総額や、協力者の存在、さらには資金の最終用途が明らかになっていくことだろう。ただ、今の段階から言えるのは、“善意”と“信頼”を裏切る事案ほど、社会不信を深めるものはないという事実である。
この事件は、ただの詐欺事件ではない。“地域再生”というキーワードに心を動かされた多くの人々が、自らの人生の意味を託した物語でもあるのだ。それだけに、真相の解明と被害者支援が何よりも急がれる。