「“13番目の男”が歩んだ知られざるサッカー人生──日本代表初招集の阪田澪哉、その才能と努力の軌跡」
2024年6月、日本サッカー界にとって小さくも確かな希望の光が差し込んだ。バーレーン戦へ向けたサッカー日本代表のメンバー発表で、当初発表された26人の中にはいなかったある選手が、直前の負傷による欠場選手の代役として電撃的に代表初招集されることとなった――その名は、阪田澪哉(さかた・れいや)、23歳。彼の名は、Jリーグファン、特に今季躍進中のサンフレッチェ広島を追っているサッカーファンには知られているが、代表戦を見るだけの視聴者にとっては、まだ馴染みの薄い名前かもしれない。その“13番目の男”が、どのようにして2024年6月を迎えたのか。その足跡をたどってみたい。
■奈良から日本代表へ──地方クラブ出身者の挑戦
阪田は奈良県生まれ。地元の小さなクラブからサッカーを始め、高校は名門・市立船橋高校へ進学。その後、大阪体育大学に進む。高校、大学と決して“エリート中のエリート”という道のりではなかったが、そのプレースタイルと真面目な人柄で徐々に評価を高めていった。
大学卒業後、2022年にJリーグのサンフレッチェ広島に加入すると、当初はベンチを温めることも多かった。しかし状況が一変したのは2023シーズン。チームのディフェンスラインに負傷者が相次ぎ、阪田に出場機会が訪れたのだ。
彼はチャンスをものにした。1対1の対応力、スピード、そして空中戦の強さに加えて、ゲームの読みの深さでチームのピンチを何度も救った。その働きが評価され、2024年シーズンには開幕からレギュラーの座を獲得。広島の堅守の中心的人物の一人として活躍し、チームを上位に導いている。
■“招集外”からの逆転劇
6月、日本代表はワールドカップ2026アジア2次予選へ向けたメンバーを発表。当初、阪田の名前はリストから漏れていた。これについて日本代表の指揮官・森保一監督は「(阪田の)成長には非常に注目している。ただ、現時点では他の選手と競ったうえで選外とした」と語っていた。
ところが、代表発表後にセンターバックの1人が負傷。急遽、追加招集が必要になったことから、阪田に白羽の矢が立った。多くの評論家やサッカーファンが「可能性としてはある」と予想していたが、それが現実となった形だ。
阪田は広島のトレーニング後にその報せを受けたという。「まさか呼ばれるとは夢にも思っていなかった」と当初は戸惑いを見せたが、「チャンスをいただいた以上、自分の力を全て出し切って日本の勝利のために戦いたい」と語るその姿勢には、これまでの努力と覚悟が滲み出ている。
■「13番目の男」が目指す場所
日本代表に初めて招集された選手にとって、最初のベンチ入り、最初のピッチ、そして最初の45分──すべてがキャリアを変える大きなきっかけになる可能性がある。特に阪田のように、もともとは代表選考に名前がなかった選手にとっては、「呼ばれただけで終わる」か、それとも「それ以上に進むか」、その差が今後の代表キャリアを大きく分けることになるだろう。
2026年のワールドカップ本大会に向けすでに競争が始まっている中、阪田はまさに“ダークホース”として浮上してきた。過去にも代表において“不意のチャンス”をものにしてスターダムを駆け上った選手たちは枚挙に暇がない。長友佑都がその好例であろう。2008年に初めて日本代表に選出された長友は、当初「まだ代表は早いのでは」とも言われたが、そこから不動の左サイドバックとして躍進し、ヨーロッパでのキャリアを築いた。
阪田もまた、自身の成長曲線にさらなる加速をつけようとしている段階にいる。現代のセンターバックに求められるのは、フィジカルの強さ、戦術理解度、そしてビルドアップの精度。阪田はまさにこれらをバランスよく備えており、特にラインのコントロールとインターセプト技術には定評がある。
■支えた家族と恩師たち
阪田がここまでの選手に成長できた背景には、家族や恩師たちの存在がある。高校時代の恩師は「まじめで控えめ。だけど誰よりも毎日早く来て練習していた」と語る。家庭では決して裕福ではなかったが、両親はどんなときも彼の挑戦を応援し続けた。そのサポートに報いるように、彼のサッカーキャリアは着実に階段を昇っていった。
■今後の可能性と広がるビジョン
阪田澪哉という名前は、今まさにサッカーの舞台の真ん中に飛び込もうとしている。アジア予選という厳しい戦いの中で、彼がピッチに立つかどうかは未定だ。しかし選ばれたという事実そのものが大きな一歩であり、次なる扉を開く鍵となる。
今後、パフォーマンス次第ではアジアカップ、さらにはワールドカップ本選メンバーへの道も見えてくる。彼のように、地道な努力と成長でのし上がる選手の存在は、多くの若い選手にとって希望そのものだ。
阪田は自らを「目立つタイプではない」と語るが、人知れず積み重ねた努力が今、まさに輝こうとしている。この“13番目の男”が、日本代表の未来にどのような物語を刻むのか、今後の活躍から決して目が離せない。