2024年6月、新たな政界の風として注目を浴びている人物がいる。彼の名は西村康稔。元経済再生担当大臣としての顔を持ち、岸田政権に対して自民党内から鋭く異を唱える存在として、今最も耳目を集める政治家の一人だ。そして6月20日、ついに彼は自民党総裁選への出馬の意向を明言した。
西村康稔の存在は、一部の国民にとってはコロナ対策の陣頭指揮を執った政治家として記憶されているだろう。東京大学法学部を卒業後、1985年に通商産業省(現在の経済産業省)へ入省。その後、アメリカの名門ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院で国際関係論を学び、国際的な視野を養った。若くして経済政策と国際問題に関する深い知見を備えた政策通として知られる。
政界入りは2003年。兵庫9区から自民党公認で出馬し、初当選を果たす。当初から冷静で理知的な語り口と、現実的な政策提言で党内外から評価を受けていた。また、党の外交・安全保障問題にも携わり、経済通であるだけでなく、国防や地政学への造詣も深い。
彼の名が全国的に知られるようになったのは、2020年、新型コロナ対策の中枢を担う経済再生担当大臣としての活躍からである。経済活動と感染防止の両立という極めて繊細な対応を迫られた中、省庁間調整や民間企業との連携を主導し、時には記者会見で直接国民へ語りかける。その姿勢は、「強さ」と「誠実さ」が同居するリーダーシップだと評価された。
そんな西村氏が今回、自民党総裁選に出馬する意向を固めた。その背景には、長引く政治不信と内閣支持率の低迷、そして岸田政権への党内外からの根深い不満がある。
「若手や中堅の議員が、今のままの自民党では未来がないと危機感を抱いている」——これは本人が記者団の前で語った言葉だ。まさに保守政治のど真ん中を歩んできた人物が、保守政治の刷新を訴える構図となっている。重要なのはこの言葉が、単なる反旗ではなく、本質的な改革への意思表明であることだ。
総裁選出馬が単なる「岸田おろし」ではないことも、西村康稔の政治家としての矜持を示している。現在、政治資金規正法の見直しや派閥の在り方が問題視される中、自民党そのものの構造改革が問われる局面だ。西村氏はあくまで次期総裁候補として、「透明性」と「説明責任」を重視する政治のスタイルを標榜している。
政策面でも注目すべき提言が多い。経済政策では、地方創生とイノベーションを高速に回す「令和型日本再生戦略」を準備中とされ、デジタル化、人材育成、そして中小企業支援をキーワードに掲げる予定だ。また、外交安全保障分野でも、アメリカやインド、東南アジア諸国との多国間連携を重視し、「戦略的自立」を唱える。世界がウクライナ紛争や台湾有事への懸念を抱える中、安全保障にも務める姿勢が見られる。
注目すべきは、西村氏のもとに集まりつつある若手・中堅議員たちの存在だ。かつての派閥政治に疲弊し、変革を志すこれらの議員は、西村氏を「ポスト岸田」ではなく、むしろ「ポスト自民党」の象徴として期待しているのかもしれない。
もちろん、今回の総裁選において西村氏が有力候補と見なされるには多くの課題もある。最大派閥「安倍派」の後継が不透明であり、岸田首相自身も立候補の意思をにじませている。その中で党員票をどれだけ取り込めるかがカギとなる。しかも自民党の総裁選は、総裁選挙人票(国会議員票と党員・党友票)によって決まるため、地方の党員の支持を得ることが必要不可欠だ。
ただし、2021年の総裁選で河野太郎氏が多くの一般党員票を集めたように、地方票が「変革志向」を表すケースは十分考えられる。西村氏の落ち着いたリーダーシップと問題解決力が広く認知されれば、国民、党員の支持は広がる可能性がある。
また、西村氏にとって追い風となるのが、政治資金の透明性に対する国民の強い要求感だ。自身はこうした「カネの問題」から一線を画しており、クリーンな政治家としての印象が強い。ならば、「党の病巣を根本から治す」旗印の下、新しいリーダーとしての信頼を得る素地は十分にある。
西村氏は「国民の信頼を取り戻す最前線に立ちたい」とも発言しており、その言葉に込められた「覚悟」と「危機感」は、現状を打開しようとする強い意志の現れだろう。
今、日本の政治に必要なのは、単なる人気取りや一過性のスローガンではなく、現実と向き合い、改革に挑む胆力のあるリーダーだ。西村康稔はその条件を兼ね備えている数少ない政治家の一人であることは間違いない。
果たして、彼が自民党を、そして日本をどう変えようとしているのか。注目の総裁選に向けた動きから、目が離せない。