2024年、政界が大きく揺れ動く中で、自民党の権力構造に一石を投じる存在として再び注目を集めている人物がいる。その名は石破茂(いしば・しげる)。防衛大臣や農林水産大臣、自民党幹事長などを歴任し、政策通として広く知られる石破氏が、再び総裁選に名乗りを上げる可能性が浮上しているのだ。
今回、石破氏の存在感が再び増すきっかけとなったのは、自民党を揺るがす「裏金問題」に端を発する政党内の信頼喪失と、次期首相候補としての人材不足が露呈している現状にある。これまでの自民党は、岸田文雄首相やかつての安倍晋三元首相らを中心に、「派閥」が大きな力を持つ構造が続いてきた。だが、裏金問題を受けて派閥の解散を表明するなど、政治資金の透明化を求める声と、それに対する政治改革の必要性がこれまで以上に高まっている。
石破氏は、その流れの中で「クリーンな保守政治家」として久々に脚光を浴びている。自身も2009年に「日本のあるべき安全保障政策」を提示するなど、政策立案能力に定評があり、裏金問題や派閥政治に距離を置いてきたことで、国内の有権者だけでなく、党内の「世代交代」を願う若手議員からも支持されている。
また、過去の総裁選出馬経験からわかるように、石破氏は安倍政権当時から「反主流派」の旗手として知られており、保守でありながらも「開かれた自民党」を志向する政治家として評価されてきた。特に地方創生や防衛政策においては、現場に根ざした政策提案を掲げ、農村や地方自治体、また自衛隊関係者などからも一定の信頼を得ている。そのような姿勢が今回の局面において、「既存の政治家とは異なる選択肢」として浮かび上がる要因となっているのだ。
石破茂氏は1957年、鳥取県に生まれた。早稲田大学法学部を卒業後、三井銀行に勤務。その後、1986年に衆議院議員に初当選し、父親である故・石破二朗知事の後を継ぐ形で政界入りを果たした。以降、防衛庁長官や防衛大臣、農林水産大臣、内閣府特命担当大臣など国政の中枢を担い続け、自民党内でも屈指の政策通として認められるようになった。
特に2002年、小泉内閣における防衛庁長官時代には、北朝鮮情勢の緊張が高まる中で、ミサイル防衛構想の導入に関与し、防衛政策における現代化・システム再編を促進した。さらに、2007年には農林水産大臣として食品安全問題に対応し、農業と安全保障を一体的に捉える独自の視点を提示している。
また、2009年から2012年にかけては、民主党政権下で野党に転じた自民党で幹事長を務め、党再建を担った。その後の2012年の総裁選では、安倍晋三氏と争いながらも、有権者や地方票に強い支持を示し、「党員から選ばれるリーダー」として存在感を示したことは記憶に新しい。
今回の総裁選挙への浮上は、裏金問題による岸田政権の不信感が募る中で、「顔を変える」必要性を自民党が認識し始めたことにも起因する。岸田首相周辺からは「クリーンな印象のある人物」が次のリーダーとして相応しいとの声もあり、石破氏がその候補筆頭として名を挙げられているのである。
とはいえ、石破氏の挑戦には「現実的な壁」も存在する。それは、長年にわたって「反主流派」として孤高の道を歩んできたがゆえに、党内の主要派閥との連携基盤が脆弱であることだ。すでに党内では茂木敏充幹事長らが次期総裁候補として動きを強めており、「派閥なき改革派」がどこまで党主流と対峙できるかが問われている。
だがそんな中、今まさに注目すべきは、これまで石破氏が政治家として貫いてきた「言葉の重み」である。「納得と共感の政治」を掲げ、「現場の声」に耳を傾けながら丁寧に語りかけるスタイルは、今の混迷する政治状況に対して、清涼な一陣の風のように感じられる。政治と金の腐敗に失望しつつも、新たな希望を求める有権者の心を捉えるものがあるだろう。
岸田首相は6月の内閣改造・党役員人事によって体制を立て直そうとしているが、その前に「ポスト岸田」をめぐる動きが一気に加速する可能性は十分にある。石破氏にとっては、この政局の流れをいかに見極め、党内外の信頼をどこまで回復させられるかが問われる挑戦であり、引退や傍観を決め込むにはあまりに状況が劇的に動いているタイミングでもある。
今後、石破茂という政治家が再び主役となる日が来るのか──。地道な言論活動と、積み重ねてきた政策への信念が報われる局面は訪れるのか。混迷を極める令和政治に、新たな光を差す存在となるかどうか、注視していきたい。