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シニア世代が選ぶ“固定電話じまい”という暮らしの転機

近年、私たちの暮らしの中で大きな変化が起きています。それは「固定電話を手放す」という選択が、特にシニア世代を中心に広がっているという動きです。かつて一家の中心として欠かせなかった固定電話は、時代の流れとともにその役割を変えつつあります。この記事では、なぜ今、シニア世代の間で「固定電話じまい」が加速しているのか、その背景や要因、そして今後の展望について掘り下げていきます。

固定電話=暮らしの拠点だった時代

かつては、家庭に固定電話があることが当たり前であり、連絡の要として多くの家庭で活用されてきました。友人や親せきとのやり取り、緊急時の連絡手段として、固定電話は重要な役割を担っていました。特にシニア世代にとっては、固定電話は長年使い慣れた安心感のある通信手段であり、「家」という生活の中心と深く関連づけられてきました。

しかし、スマートフォンの普及とともに、固定電話の果たす役割は次第に薄れていきました。特にここ10年で、通信技術の進化によって個人がスマートフォンで直接連絡を取り合うスタイルが一般的になると、家庭の回線を通したコミュニケーションは減少。その結果として、固定電話の価値や必要性は見直されるようになりました。

なぜ今、シニア世代が固定電話をやめるのか?

一見すると、IT機器やデジタル技術と最も距離があるとされがちなシニア世代。しかし、近年では60代・70代の人々においてもスマートフォンの使用が当たり前になりつつあります。家族との連絡や、健康管理アプリ、地図検索など、生活の中でスマートフォンが便利なツールとして定着してきました。

そのような環境下で、「固定電話がなくてもさほど不便を感じない」という声が増えているのです。さらに、固定電話を通じた詐欺事件が多発していることも大きな要因の一つです。「オレオレ詐欺」や「還付金詐欺」など、固定電話を狙った高齢者向け詐欺の多発により、自宅の電話番号を持つこと自体がリスクと捉えられるようになっています。

実際、NTT東日本・西日本の発表によると、固定電話の契約数は年々減少傾向にあります。総務省のデータでも、2020年度には従来のアナログ回線契約数が前年比で約7%減少しており、特に高齢者層の固定回線解約が加速していることが確認されています。

また、月々の維持費が節約できるという点も、固定電話を手放す動機となっています。年金生活に入ったシニア層にとって、固定電話の基本料金や通話料などは、見直し対象になりやすい支出項目。必要性が薄くなれば、コストカットを目的に解約を選ぶのは自然な流れと言えるでしょう。

一方で残る「心の繋がり」としての固定電話

とはいえ、「固定電話をなくすのは寂しい」「番号を変えると友人と疎遠になりそう」といった声が根強くあるのも事実です。特に長年同じ番号を使い続けている人にとって、それは一種の「住民票」に近い存在。地元のつながりや旧友との交流を保っている手段が固定電話というケースも少なくありません。

また、スマートフォンに不慣れな人や、目や手の動きに課題を感じている高齢者にとっては、依然として固定電話の使いやすさや安定性が評価されています。電源が落ちにくいことや、受話器を取るだけで通話できるシンプルな操作性など、スマートフォンにはない安心感があるため、完全に切り替えることに不安を感じる人も多いのが実際のところです。

固定電話のこれから:選択と適応の時代へ

「固定電話じまい」が加速する背景には、通信の変化と時代のニーズの変化がありますが、決してすべての人にこれが当てはまるわけではありません。むしろ、これからは「必要なものを取捨選択していく」という、生き方そのものの変化が求められている時代と言えるでしょう。

大手通信会社もこうした流れに対応し、インターネット回線と統合されたIP電話サービスの提供を進めています。番号はそのまま、コストを抑えて使い続けられる選択肢も出てきており、「完全にやめる」か「形を変えて継続する」かを選べるようになったことで、より柔軟な対応が可能になっています。

また、家族との支え合いや地域コミュニティとのつながりを大切にしながら、どのように新しいツールを活用して暮らしをより安全で快適にしていくかが、私たち一人一人に問われているテーマでもあります。

まとめ:固定電話じまいは“変化への対応”の象徴

「固定電話じまい」という言葉は一見するとただの通信手段の変化に過ぎないように思えますが、その背景には、社会の高齢化、生活スタイルの変化、そして個人の生き方の変容があります。長年慣れ親しんだものを手放すことには勇気も必要ですが、それは同時に、新しいライフスタイルへの一歩でもあります。

これからは、自分にとって本当に必要なものを見つけ、それを上手に取り入れる力が求められる時代です。固定電話をやめる決断も、デジタル社会の中で自分らしく暮らしていく選択肢のひとつ。今後もそれぞれの世代が、自分のペースで“変化”に対応してゆくことが期待されます。