「守田英正、ポルトガルの小都市からパリ五輪世代の若手を導くベテランへ──異国で磨かれた視野とリーダーシップ」
ポルトガル・プリメイラリーガの名門スポルティングCPで着実にキャリアを築いてきた日本代表MF守田英正(もりた ひでまさ、29歳)が、再び脚光を浴びている。今回、彼の名が日本代表メンバーから外れたことが、ファンの間で大きな驚きをもって受け止められた。一方で、その背景には日本代表の世代交代の波と、彼自身が築き上げてきた信頼の厚さが色濃く影を落としている。
守田は高校時代まで全国レベルの選手ではなかった。大阪府出身で、金光大阪高校から流通経済大学へと進み、大学3年生のときにはケガの影響もあり控えが多かった時期もある。それでも諦めることなく努力を重ねた彼は、2018年、24歳という比較的遅咲きの年齢でJ1・川崎フロンターレに加入。その年のJリーグ開幕戦で突然のデビューを果たすと、以後、中盤の大黒柱として川崎の黄金期を支えた。
187cmの長身を生かしたフィジカルに加え、狭いスペースを冷静に抜け出す判断力、正確なパスワークは、すぐに海外スカウトの目に留まった。2021年にポルトガル1部リーグのCDサンタ・クララへ移籍。そこでは新たな環境や言葉の壁に戸惑いながらも、持ち前の勤勉さと謙虚な姿勢で周囲の信頼を勝ち取り、瞬く間に主力の座を獲得した。その活躍が評価され、2022年には同国のトップクラブであるスポルティングCPへステップアップ。名門クラブでレギュラーとして出場を重ねるだけでなく、ヨーロッパリーグ(EL)などの大舞台での経験も積み上げてきた。
特に中盤における彼のバランス感覚と守備力、視野の広さはチーム全体を安定させ、日本サッカー界でも貴重な「バランサー」として、2022年FIFAワールドカップ・カタール大会ではグループリーグ全試合に先発出場。中盤の構成力で強豪ドイツ、スペイン相手の歴史的勝利に貢献した姿は、記憶に新しい。
だが、多くの代表選手と同様、30歳を目前にして「次世代」との競争は避けられない。今回のW杯アジア予選(対ミャンマー、対シリア)では、若手の成長著しいプレイヤーたちに出場機会を譲る形となり、森保一監督の代表構想にも変化の兆しが現れた。特に目覚ましい活躍を見せているのは、パリ五輪世代であり五輪代表メンバーの筆頭候補とも言われるMF佐野海舟(鹿島アントラーズ)や川崎の田中碧といった新世代の司令塔たちだ。
そうした中、守田が特別な存在であり続ける理由の一つは、異国の地で培った「客観的な視点」と「文化横断的な思考」だ。ポルトガルと日本は、文化も、気候も、言語も異なる。それでも守田は、スポルティングの戦術スタイルに自らを適応させることを恐れず、きちんと結果を出している。彼のポジションはボランチ、つまり攻守の潤滑油としての役目が求められる最もつぶしのきかない配置。その中で、相手の意図を読み、仲間の動きを予測し、チーム全体に「間」を作る冷静なプレーこそ、守田英正の真価と言えるだろう。
実際、スポルティングでは主力選手としてリーグ戦、カップ戦、さらには国際大会でも重要な試合を任されている。プレッシャーのかかる欧州の舞台で常に高いパフォーマンスを維持するために重ねてきた工夫と努力は、静かながら強い存在感となって彼の背中ににじみ出ている。
日本サッカー協会や森保監督が重視しているのは、個々の能力だけでなく「代表チームとしての一体感」だ。その点で守田のように、「個が強いが孤立しない」選手の存在は不可欠だ。たとえ今回のメンバーから外れたとしても、彼のような国際経験豊富な中堅選手は、今まさに過渡期にある日本代表にとって精神的支柱ともなり得る。
守田自身、代表離脱後のコメントでは、落選を大きく取り沙汰するようなこともせず、静かに次への決意を語った。それは、自身の立場を客観視できる成熟した選手だからこそできる態度でもあり、次世代の若手たちにとってひとつの「理想的なモデル」でもある。
今後、彼が代表に再び呼び戻される可能性は十二分にある。特に、2026年のFIFAワールドカップ北中米大会を見据えた長期的なプランの中で、「経験」と「冷静な判断」を持つ守田のような選手は、育成のキーマンとして再評価されるはずだ。あるいは、パリ五輪世代へのメッセージを込めたメンター的な立ち位置で、未来の代表を裏から支える役目を果たす可能性も大きい。
“海外組の象徴”から“代表の潤滑油”へ、そして“経験豊富な第三者的視点を持つ存在”へと、守田英正の立ち位置は変わりつつある。しかし、それが彼自身の価値を損なうものでは決してない。むしろ今こそ、彼が積み重ねてきた「異国での経験」こそが日本サッカーにとって貴重な財産として求められていると言える。
守田英正、その名を聞いたときの“安心感”。それは、派手ではないが、確実に存在価値をチームにもたらしてくれるプロフェッショナルのみが放つ特別なオーラである。
彼がいつどのタイミングで日本代表に戻ってきても、そこに違和感はないはずだ。
そしてその未来が、近いうちにやって来るかもしれない。