「トリキバーガー苦戦 市場の難しさ」
最近、ニュースで「トリキバーガー」が業績的に苦戦を強いられているという報道がありました。焼き鳥チェーンでおなじみの「鳥貴族ホールディングス」が展開する新業態「TORIKI BURGER(トリキバーガー)」が立ち上げから数年を経て、事業戦略の見直しを迫られているという内容です。この記事では、トリキバーガーのこれまでの歩みとその背景にある外食業界の市場環境について整理しながら、なぜトリキバーガーは苦戦しているのか、そしてそこから見えてくる日本の飲食ビジネスの難しさについて考察していきます。
鳥貴族の新規事業として登場した「トリキバーガー」
まずは簡単にトリキバーガーの誕生について振り返ってみましょう。鳥貴族といえば、均一価格でリーズナブルな焼き鳥を提供する居酒屋チェーンとして広く知られています。その鳥貴族が新たな業態として立ち上げたのが「トリキバーガー」です。第1号店は2021年8月に東京都品川区にオープン。“こだわりの国産若鶏を原料としたバーガー”を主力商品として掲げ、ファストフード業界への参入を果たしました。
居酒屋業態とは異なり、より幅広い客層にアプローチし、新たな収益の柱を作ることが狙いだったと考えられます。チキンバーガーはヘルシー志向や鶏肉人気の流れともマッチしており、「国産」「手づくり感」「安心・安全」といったキーワードを軸に、新鮮さと品質にこだわったメニュー展開を進めてきました。
しかしながら、開店から約2年半が経過した今、採算が取れない状況が続き、本格的なFC(フランチャイズ)展開も保留。今後は事業の見直しや方向転換を迫られる結果となっています。
なぜ苦戦を強いられているのか?
トリキバーガーが目指したのは“素材や品質の良さを打ち出したハンバーガー店”という方向性でした。確かに、ファストフード業界においてもヘルシー志向や素材重視の流れは無視できないトレンドです。しかし、現実にはマクドナルドやモスバーガー、ケンタッキーといった既存大手による激しい競争が存在しています。新興プレイヤーが入り込む余地は決して広くはありません。
特にトリキバーガーが苦戦を強いられた要因としては、以下のような点が挙げられます:
1. ブランドの位置づけの難しさ
トリキバーガーは「高品質」「手づくり」「国産」などを売りにしていた一方で、価格帯もやや高めに設定されており、気軽さという面では大手チェーンにやや劣っていた可能性があります。高級路線を目指すほどの高価格でもなければ、安さやボリュームで勝負するスタイルでもない。市場におけるポジショニングが中途半端になってしまい、消費者にとって“なぜトリキバーガーを選ぶのか”という明確な理由づけが弱かったとも言えます。
2. ファストフード市場の競争の激しさ
ハンバーガー業界は大手チェーンが多額の広告投資やキャンペーン、アプリなどで常に顧客維持に力を入れており、新規参入するには非常にハードルの高い市場です。知名度やブランド力、効率的なオペレーション体制を持たない企業が入るには厳しい面があります。トリキバーガーは鳥貴族という認知度のあるブランドを背景にはしていますが、居酒屋のイメージが強く、バーガー業態における期待値や信頼感を同様に得るには時間が足りなかった可能性があります。
3. 外食業界全体の苦境
新型コロナウイルスの影響を受け、外食産業全体が大きな影響を受けたのは言うまでもありません。営業時間の制限や人流の減少、また人手不足や原材料の高騰など、飲食店にとっては逆風が続いています。鳥貴族ホールディングスもこれらの影響を受け、本業である居酒屋事業を含めて回復が遅れる中、新規事業に十分なリソースを割くことが困難だったという事情もあるでしょう。
今後の展望と教訓
今回のトリキバーガーの苦戦は、外食業界において新ブランドの立ち上げがいかに困難であるかを示す良い例でもあります。いくら品質に自信があっても、それを消費者にどのように伝え、「この商品を買う理由」を明確に作らなければ結果には結びつきません。
もちろん、すぐに撤退するという発表があったわけではなく、今後、鳥貴族ホールディングスがどのような形でこの経験を生かしていくのかが注目されます。商品の見直しや店舗展開戦略の再構築、ターゲット層の再定義など、選択肢は多くあります。たとえば、消費者のニーズが地域によって異なることを考慮して、地方展開やポップアップ店舗の展開など、新しい試みが可能です。
また、現代の消費者は単なる「安さ」だけでなく「体験」や「ストーリー」に価値を見出す傾向もあります。単なるバーガーではなく、国産の素材を活かすストーリーや、生産者とのつながりなど“背景”を伝えることで共感を呼び、ブランド力を高める方法もあるかもしれません。
まとめ:トリキバーガーの挑戦に見る市場の厳しさ
トリキバーガーの事業展開とその苦戦には、多くの外的・内的要因が複雑に絡みあっています。しかし、それは「チャレンジを恐れずに新たな価値を創造しようとした」企業の姿勢の表れでもあります。そして何より、今回の事例から私たちは多くの学びを得ることができます。
外食事業は日々の積み重ねと顧客との信頼関係の構築が最も重要です。“おいしさ”だけではなく、“ここにしかない魅力”が求められる厳しい市場で、どのような立ち位置を築くのか。それは既存チェーンにとっても、新しく参入しようとするプレイヤーにとっても簡単なことではありません。
今後、トリキバーガーがその経験を基にどう進化していくのか。消費者としても、それを見守り、応援していきたいものです。そして外食業界がさらに多様なサービスと選択肢を提供する場として発展していくことを期待しています。