独立リーグからメジャーリーグへの挑戦――“異色の経歴”元バスケ部投手・小孫竜二、プロ初登板で刻んだ新たな一歩
2024年6月9日――この日、プロ野球・楽天イーグルスの本拠地・楽天モバイルパーク宮城で、ひときわ大きな拍手に包まれた男がいた。8回表、マウンドへと向かったのは、背番号013、プロ入り2年目の右腕・小孫竜二(こまご りゅうじ)。その名は、球界のファンの間ではまだ耳慣れないかもしれない。しかし、彼の歩んできた道のりは、異例尽くしであり、その一投その一球に、数え切れないほどの物語が詰まっている。
千葉県八千代市出身の小孫は、野球エリートの道とは無縁だった。高校は千葉県立成田国際高校。甲子園常連の強豪校ではなく、全国区の知名度を持つ訳でもない。中学時代はバスケットボール部に所属しており、高校から本格的に野球に取り組んだ。しかも、球歴はリトルリーグやボーイズリーグ、シニアといった少年野球の基盤を持つ選手たちから比べると、圧倒的に短い。
しかし、小孫には「どうしてもプロ野球選手になりたい」という信念があった。猛練習の末、札幌の北洋大学へ進学。北海道学生野球連盟の中では無名とされる大学ではあったが、小孫は持ち前の努力と意志の強さで次第に頭角を現す。特に大学4年の春には最速148km/hを記録。小さな大学で光るその存在は、次第にスカウトたちの目に留まるようになった。
そして大学卒業後、2021年のプロ志望届を提出。NPBの舞台を目指すものの、残念ながらどの球団からも指名されなかった。ここで諦める選手も多い。しかし小孫は、また違う道を進む。独立リーグ・ルートインBCリーグに加盟する茨城アストロプラネッツへ入団。プロの世界を諦めなかった。
独立リーグでは貴重な右の速球派として実績を積み上げていく。2021年、2022年と主戦力として登板。地道に力をつけ、満を持して迎えた2022年オフ、育成ドラフトで東北楽天ゴールデンイーグルスから6位指名を受けた。この瞬間、小孫の挑戦は大きな一歩を踏むことになる。
ただし、育成選手としてのスタートは、満足できるものではなかった。支配下登録されなければ、1軍でマウンドに立つことは叶わない。二軍で試合とトレーニングに明け暮れる日々の中、それでも前を向き、球速と制球力を武器にコツコツと成績を積み重ねていった。身長177センチ、体重76キロ。プロ野球投手としては大柄ではないが、それ以上に彼には“挑戦の精神”があった。
そして2024年6月6日、小孫に朗報が届く。この日、球団が正式に支配下登録を発表。背番号は013。プロ野球生活の第二幕――ようやく始まりのゴングが鳴った。そしてわずか3日後の9日、遂にその時が訪れる。
8回表、対阪神戦、楽天が4点リードした場面で小孫はマウンドに立った。独立リーグ、育成契約、そして支配下登録。すべてを経て、ついに1軍のマウンド――夢の舞台に立った。対戦する相手は阪神タイガースの5番・佐藤輝明。昨年までチームの4番を担っていた長距離砲である。緊張が走る中、プロ初の打者に対して投じたストレートは力強く、鋭く打者の内角を突いた。
結果は、佐藤輝を142km/hの直球でセカンドゴロに仕留め、1アウト。続く打者の森下翔太にも粘られながらも最終的には打ち取った。プロ初登板ながら、堂々たる投球。球場に響いたのは、心からの拍手と感動だった。
試合後のインタビューで小孫は語る。
「ここまで長かったけど折れずにやってきたことが、今日につながったと思います。どんな形でも諦めず続けることが大事だと、実感しました。たくさんの人に支えられて、今ここに立っています。」
球界には、エリート街道を進む選手が数多くいる。一方で、小孫のように夢を諦めず、下積みと努力の末にチャンスを掴む選手もまた、プロ野球の魅力を体現している存在だ。彼の存在は、野球少年たちや地方で野球を続ける若者たちに、そして今まさに夢を追っているすべての人へと勇気を与えてくれる。
小孫竜二――彼のプロ野球人生は、まだ始まったばかりだ。今後、楽天の救世主として、あるいは中継ぎ陣の核として、チームを支える存在になる可能性は大いにある。地道な努力と信念を武器に、巨人にも阪神にも負けない“自分だけのマウンド”を切り拓いてほしい。
最後に、小孫が育成契約時代にチームメートへと語った言葉を紹介したい。
「どんなに苦しくても、応援してくれる人がいる限り、オレは絶対諦めない。」
その信条が、現実となった瞬間を、私たちは確かに目の当たりにした。この背番号013が、楽天そしてプロ野球の未来を彩る存在のひとりになることを、心から願ってやまない。