近年、大相撲の土俵を彩る「懸賞旗」は、テレビ中継を通じてファンにも馴染み深い存在となっています。取組直前に土俵を巡回する懸賞旗は、企業名が大きく掲げられ、全国の視聴者の目に留まるプロモーション手段の一つです。そんな懸賞旗に関するニュースが注目を集めています。日本相撲協会が、2024年7月場所(名古屋場所)から、懸賞金の袋の中に入れる現金の額を「3万円」から「1万円」に縮小することを決定しました。
本記事では、この変更の背景や懸賞制度のこれまで、関係者およびファンへの影響について解説しながら、大相撲という伝統文化の一端に触れてみたいと思います。
■懸賞制度とは? 懸賞金は誰が出しているのか
まず初めに、懸賞金とは何かを整理しておきましょう。大相撲の取組の中でも、特に注目の一番には懸賞金がかけられることがあります。これは企業や団体、時には個人が「この取組を応援したい」「自社のPRをしたい」という思いから、懸賞金を申し出るという仕組みです。
取組前に審判員の前をぐるりと回る「懸賞旗」こそが、懸賞金がついていることの証。たとえば「◯◯コーヒー」や「△△クリニック」と大きく描かれた旗は、広告としての側面を持ち、テレビ中継で全国に放映されるため、企業にとっては大きな宣伝効果が期待されます。
実際に懸賞金が授与されるのは取組が終わった後。勝利力士が懸賞袋を受け取り、きびすを返して観客に一礼する。こうした姿は令和の今も、変わらぬ伝統として続いています。
■これまでは「1本につき現金3万円」が通例
新聞報道などによると、懸賞1本あたりの支出額はこれまで約6万2,000円でした。その内訳は、勝利力士に渡るのが3万円、源泉徴収として約1万1,000円、協会への手数料が約2万1,000円とされています。
つまり、企業などが1本の懸賞旗を掲げるためには、実に6万円以上を支払っていたことになります。人気力士が登場する好カードでは懸賞旗の行列ができることもあり、多いときには20本、30本が掲げられることも珍しくありません。
■2024年7月より変更:中身は1万円、協会手数料増額へ
ところが今回、日本相撲協会は、2024年7月の名古屋場所から、力士に渡される現金額を「3万円」から「1万円」に縮小することを告知しました。ただし、懸賞金を出す企業が支払うトータルの金額はおおよそ維持される方向です。
すなわち、企業側が従来と同額を払っても、力士の手元に届く金額は減少し、その分、源泉徴収額と協会手数料の占める割合が増す形となります。報道によれば、今後は手数料が上昇することによって、懸賞旗制度の見直しとシステムの管理強化が目的のようです。
■協会による経費見直しと運営効率化の動き
今回の措置について、日本相撲協会は「懸賞制度の透明性向上」や「経費・事務手続きの簡素化」が目的と説明しています。関係者によると、これまで懸賞金の授受には多くの事務的手間がかかっていたといいます。
人手不足の中で、手作業での現金管理、関係各所との調整などが非効率となってきた背景があり、システムの合理化を進めようという意図があるとのことです。ただ、具体的なシステム運用方針や、手数料増加分が何に活用されるのかについては、2024年6月1日時点では明らかにされていません。
■力士やファンの反応は?
この変更に対して、関係者の間では賛否両論があります。一部の関係者からは「懸賞を出す企業が減るのでは」という懸念も聞かれます。実際、企業側にとっても、手数料が増えることでコストパフォーマンスが下がる可能性があります。
一方で、現役力士の中には「収入減は残念だが、協会運営が効率化されるならやむを得ない」と理解を示す声も見られます。観客やファンも、「力士に還元してほしい」という気持ちとともに、「伝統を続けるには仕方ない」という意見が交錯しています。
■今後、懸賞制度はどうなるのか
日本相撲協会による説明の通りであれば、この変更は制度の継続性や透明性を確保するためのアップデートとも考えられます。懸賞旗制度は古くから続く大相撲の風習の一つですが、経済情勢や広告媒体の多様化に合わせて、進化を求められている面もあります。
たとえば、近年ではネット中継やSNSを通じた力士・協会のプロモーションも活発になり、広告費の投入先としても多様な選択肢が考えられるようになりました。企業にとって「旗1本6万円」のコストが適正かどうかも、再考の機会となりそうです。
この先、懸賞制度を持続可能なものとするには、協会だけでなく、力士、企業、ファン、すべての関係者が納得できるルール作りが求められるでしょう。可能であれば、協会が意見を広く吸い上げる場を設けることも、大きな前進となるかもしれません。
■最後に:懸賞旗のある風景を守るために
大相撲の懸賞旗は、それ自体が一つの風物詩であり、勝者が袋を大切そうに掲げ、一礼するシーンは、日本のスポーツ文化に根ざした美しい光景です。その一瞬に込められた努力と報酬の象徴として、ファンの目にはとても印象深く映ります。
金額の変更という制度面の変化はあれど、こうした風景がこれからも続いていくことを、多くの相撲ファンが願ってやまないことでしょう。大相撲という伝統芸能とスポーツが融合した唯一無二の舞台が、令和の時代にも誇り高く続いていくために、私たち一人ひとりが文化としての側面にも関心をもてるとよいのではないでしょうか。
今後の動向とともに、ぜひ温かい視点で見守っていきたいところです。