株式会社なか卯が24時間営業を終了へ──時代とともに変わる飲食業のあり方とは?
丼ものやうどんなどの和風ファストフードで知られる「なか卯」が、長年続けてきた24時間営業を廃止する方針を明らかにしました。この発表は、2024年6月上旬に報道各社によって取り上げられ、多くの利用者や業界関係者の間に大きな関心を呼んでいます。サービスの利便性と従業員の労働環境をどう両立させるか、現代の飲食業界が抱える課題を浮き彫りにするニュースとなりました。
本記事では、なか卯による24時間営業終了の背景、今後の営業体制、そして今回の動きが示唆する業界全体のトレンドについて考察していきたいと思います。
なか卯とは?──「和」を前面に押し出したファストフード業態
なか卯は、1974年に創業され、現在は親会社であるゼンショーホールディングスの傘下として全国に約450店舗(2024年現在)を展開しています。主力商品は「親子丼」や「和風牛丼」、うどんメニューなどで、他のファストフードチェーンにはない「和食」ベースの味付けと価格帯が幅広い層に支持されてきました。また、店舗の多くが都市部へ展開されており、働く世代や学生を中心に、「手軽に安価な食事を済ませたい」というニーズに応え続けてきました。
顧客にとっての24時間営業の魅力
24時間営業は、多忙な生活を送る人々にとって大きなメリットとなっていました。深夜勤務の人、夜遅くまで勉強する学生、深夜のドライブ中の軽食、または早朝からの営業といったさまざまなニーズに応えられる体制は、なか卯のひとつの強みとされてきました。
とりわけ、都市部では夜間の需要も比較的高く、食事の選択肢が限られる時間帯において利用者にとって頼もしい存在でした。たとえば、終電後になか卯で一杯のうどんを食べてから帰るサラリーマンの姿を見かけたことがある方も少なくないでしょう。
しかし、時代が進むにつれ24時間営業の維持は次第に課題も抱えるようになったのです。
24時間営業の終焉──背景にある「人手不足」と「生産性向上」
今回、なか卯が24時間営業を終了すると発表した背景には、いくつかの重要な要因があります。
まず最も大きな理由の一つは、人手不足です。飲食業界は以前から深刻な労働力不足が続いており、とくに夜間帯の勤務に関しては応募者が少ない傾向にあります。深夜勤務は身体的・精神的な負担が大きく、また生活リズムを崩しやすいことから、アルバイトやパートタイマーから敬遠されがちです。
なか卯を運営するゼンショーグループにおいても、人手確保の難しさが年々高まっており、そのため業務負担の平準化、サービス品質の安定化、また労務管理の適正化の観点からも24時間営業の見直しは必要な施策として位置付けられたと見られます。
もう一つの要因は、社会全体の「働き方改革」と、それに伴う消費行動の変化です。新型コロナウイルスの影響を経て、テレワークの普及やライフスタイルの多様化が進行し、人々の外食の時間帯や頻度にも変化が現れました。深夜帯の需要は以前に比べて縮小傾向にあるとされており、非効率な時間帯に無理をして営業を続けるよりも、営業時間を絞って集中したサービスを提供することが重視されるようになっています。
「24時間営業はもう古い」──進む飲食チェーンの営業改革
実は、なか卯だけでなく、他の多くの飲食チェーンもすでに24時間営業の見直しを進めています。たとえば、牛丼チェーンの「すき家」や「吉野家」なども、深夜帯の営業を縮小する店舗が増加しています。コンビニ業界でも、地方圏を中心に24時間営業の見直しが議論されたことは記憶に新しく、一種の社会的な流れともいえるでしょう。
その背景には、単に人件費削減や人手不足対策だけでなく、企業としての持続可能性(サステナビリティ)を高めていくという戦略的な意図も含まれています。人に優しい働き方を推進することは、採用競争力や企業イメージの向上にもつながり、中長期的にはブランド価値を高めていく上で避けて通れない課題といえるのです。
なか卯の今後の営業体制──「深夜帯」以外での満足度向上へ
現時点で明らかになっている情報によれば、なか卯では段階的に24時間営業を終了する予定だとされています。これはすなわち、一夜にして全店が同時に営業体制を切り替えるのではなく、各店舗の立地条件や利用実態、スタッフの状況に基づいて柔軟に対応していく戦略だと考えられます。
代わりに注力されるとみられるのが、昼間のピークタイムや夕食時間帯など、より需要の高い時間帯への対応強化です。商品ラインアップの強化、店内オペレーションの効率化、モバイルオーダーやキャッシュレス決済などのIT対応などを通して、「深夜」以外の時間帯での満足度を高めようという方向性が見てとれます。
また、テイクアウトや宅配サービスへのシフトも今後加速する可能性があります。自宅にいながらでも手軽に「なか卯の味」を楽しめる環境を整えることで、深夜営業がなくても顧客満足度を維持できるという新しい形のサービス提供が期待されます。
利用者としてどう向き合うか──「変わっていく」ことを前向きに捉える重要性
24時間営業の終了という知らせに、利便性の低下を感じてしまう方もいらっしゃることでしょう。特に夜勤や夜型の生活スタイルをしている方にとっては、深夜に開いている飲食店の存在は重要なインフラの一つでもあります。
けれども一方で、私たちが当たり前のように受けてきたサービスの裏側には、懸命に働いている人々がいるという事実もまた再認識させられます。サービスの提供時間が短くなることは一見マイナスに見えるかもしれませんが、それによってサービスの質が高まり、従業員の生活がよりよいものになるのであれば、喜ばしい変化ともいえるのではないでしょうか。
今後も「なか卯」がより良い営業体制のもとで、安心・安全でおいしい食事を提供し続けてくれることを、多くのファンが願っているはずです。
まとめ──24時間営業の終了をポジティブな変革として受け止めよう
「なか卯」の24時間営業廃止は、単なる営業時間の変更ではありません。それは、飲食業界全体における働き方改革、消費者行動の変化、そして企業と従業員双方の持続可能性を模索する中でのひとつの大きな決断です。
私たち消費者もまた、「いつでもあって当たり前」の便利さの裏にある努力と負担に目を向けながら、このような社会のあり方の変化を前向きに受け止める視点を持つことが必要とされている時代に来ているのかもしれません。
今後、なか卯がどのように新しい営業スタイルを構築し、お客様への満足を提供し続けていくのか。その歩みに、引き続き注目していきたいところです。