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元TBS記者が挑む「やまゆり園事件」の再検証──大川真澄が問い直す正義と冤罪の可能性

2024年6月、日本の法曹界で注目を集める人物がいる。彼の名は大川真澄。現在、元TBS記者である彼の行動が全国的な注目を浴びている。かつてテレビの報道現場で第一線を駆け抜けた報道マンが、今、司法の場で冤罪事件と闘う支援活動を展開中だ。その活動の中心にあるのが、「やまゆり園障害者殺傷事件」を巡る冤罪の可能性であり、特に、事件当時に唯一殺人を否認した被告人・植松聖以外の「別の可能性」に注目した取り組みが始まっている。

「真実とは何か」――これは報道記者としての問いであり、弁護士としての信念でもある。大川真澄は長年、TBSの報道部門で記者としてキャリアを重ねた。警視庁記者クラブに所属し、重大犯罪や警察関連の事件、冤罪事件の取材を数多く経験。彼の掘り下げる力、裏付けを取る地道な取材は、当時の報道の中でも一線を画していた。そして、記者として得た「疑問を持ち続ける姿勢」が、彼を法曹の世界へと突き動かす。

2016年7月、相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で、19人が殺害され、26人が負傷するという凄惨な事件が起きた。犯人として逮捕されたのは、元施設職員の植松聖。事件当夜に自首し、動機も明確に供述したことなどから、事件は「極めて異例ではあるが立証容易な大量殺人事件」と理解されてきた。2020年には横浜地裁でその責任能力を認め、死刑判決が確定した。

しかし、大川真澄はこの「常識」に疑問を呈している。2022年7月、弁護士となった大川は、植松死刑囚の支援者らとともに再審請求に向けた調査活動を開始した。その活動は、決して「植松聖の行動を正当化しよう」というものではない。あくまで、「彼一人に全責任を押しつけることで、真に明らかにされるべき事実が隠蔽されていないか」「手続きは本当に公正であったのか」という問いを改めて社会に投げかけるものである。

注目されているのは、事件当夜の植松の行動時間だ。植松は深夜2時以降、およそ50分の間に3つの棟を移動しながら、19人を殺害し、26人を負傷させたとされる。その動線と時間配分には合理性があるのか。大川は医療関係者やセキュリティ専門家と協力し、詳細な再検証を進めている。

また、関係者の証言や、警察によって押収された監視カメラ映像の扱いについても、大川は検証を進めている。取材によってある職員から得た「事件のわずか少し前に植松が施設から出て行くのを複数職員が目撃していた」という証言や、「本当にあの時間に19人を無力化できたのか?」という医療的な見解など、裁判の場では取り上げられなかった事実が外に出始めているのだ。

大川の取り組みの背景には、「報道の現場で限界を知った」という記者時代の葛藤もある。やまゆり園事件の時、当時TBSに所属していた彼は事件を報道する立場だった。しかし、自首によって真実が明らかになったと思われたこの事件に、どこか違和感を抱えていた。「すべてができすぎている」と。

「メディアは、時に真相に迫ることをやめてしまう。特に誰もが感情的に一区切りついたと感じる事件ほど、そこで終わったと思い込みが生まれてしまう。でも、当事者にとっては、そこで始まったまま何も終わっていない」と彼は語る。そして、弁護士という立場は、報道機関には持てない「法的アクセス権」を持ち、物言えぬ事実や証拠に直に当たることができる。

さらに大川は、植松が受けた精神鑑定に疑問を呈する。確かに彼の思想は極端であり、障害者排除を唱える過激な言動も取っていた。だが、彼の言動すべてが「責任能力あり」とされ、その背景にある生育歴や精神的基盤が公正に評価されたのかは、再検討すべきだとしている。

彼の活動は決して簡単なものではない。世論の多くは「この事件に冤罪はない」と考えており、植松の行為に同情や理解の余地など一切不要とする厳しい声も多い。しかし、それでも大川はこう語る。

「民主主義の社会では、どんな人間にも適正な手続きが保障されるべきです。とりわけ死刑という究極の罰を下すのであれば、なおさら慎重でなければなりません」

彼は今、支援者と共に再審請求の準備を進めている。そして、2024年6月現在、法務大臣宛てに提出した再審請求の意見書や、証拠再検証の詳細が弁護団から公に発表される予定だ。

世を震わせた大量殺人事件。その「裏」に潜むかもしれないもう一つの顔を、私たちはどこまで正確に見据えているのか。そして、正義とは、本当に何を指すのか。大川真澄という一人の元記者が、自ら職を辞し、法曹界へと進んだ理由は、そこにある。

どんなに忌まわしく、受け入れがたい事件であっても、正義の名の下に事実と向き合う姿勢を忘れてはならない――そう教えてくれている。