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過去最多の離職者に揺れる海上保安庁──迫られる人材確保と職場改革の行方

近年、安全保障や海洋監視の重要性が高まる中で、海上保安庁の職員数に変化が見られています。特に注目すべきは、2023年度に海上保安庁を離職した職員数が過去最多の389人に達し、職員総数が14年ぶりに減少に転じたという点です。本記事では、このような傾向が見られる背景や、それに伴う課題、そして今後の対策について掘り下げていきます。

海上保安庁とは何か?

海上保安庁とは、日本の国土交通省の外局として、海上における安全と秩序の維持を担う機関です。その業務内容は多岐にわたり、違法操業の取り締まり、海難救助、環境保護、領海警備、さらには災害対応なども含まれます。平成以降、特に尖閣諸島周辺海域などにおける警備強化が図られてきたことや、犯罪の多様化によって業務の複雑性と重要性は高まる一方です。

しかし、こうした業務による負荷の増大とともに、人材確保と定着が課題として浮き彫りになっています。それが今回報道された、職員数の減少という形で現れました。

過去最多の離職者数と職員数の減少

2023年度に海上保安庁を離職したのは、定年を迎えた職員や新規採用後まもなく退職を選んだ若年層など含め、389人に上りました。これは過去最多の離職者数であり、総職員数においても14年ぶりに減少となりました。離職理由としては、体力や精神的な負担、長時間勤務、出世の限定性、家庭との両立の難しさなどが挙げられており、特に若手職員や女性職員が「今後長く働き続けることが難しい」と感じているケースが目立ちます。

特に、女性職員の比率が増えつつある中で、妊娠・出産・育児への職場体制がまだ十分に整っていない現状があります。相対的に育児休暇や復帰後のフォロー体制が不足しており、職場での孤立感やキャリアパスへの不安が離職理由の一つとなっていると指摘されています。

安全保障環境の変化と業務量の増加

海上保安庁の職員が直面しているストレスの大きな要因の一つは、ここ数年で海洋における安全保障環境が急速に変化していることです。とりわけ、尖閣諸島周辺をはじめとする東シナ海地域においては、外国船舶の接近が日常化しており、その都度、対応しなければならない現場の業務は非常に緊張感を伴います。

また、北朝鮮のミサイル発射に関する情報収集や、違法操業対策、さらには観光客増加に伴う海難事故対応なども求められ、業務範囲と件数は増加の一途をたどっています。こうした環境で、宿直や夜間出動が頻繁に求められ、ワークライフバランスが崩れやすくなっていることも職員離職の一因とされています。

若手育成と定着に向けた取り組みの重要性

国土交通省や海上保安庁では、職員減少への危機感から様々な施策を進めようとしています。具体的には、福利厚生の拡充、勤務環境の改善、勤務ローテーションの見直し、長時間労働の是正といった、働きやすい職場づくりが求められています。

また、職員の結婚や子育てを支援するため、育児休業や時短勤務制度の積極的な導入と、それを利用しやすい職場風土の醸成も重要とされています。加えて、キャリア形成を見据えた人材育成や、女性の管理職登用の推進といったジェンダーバランスの視点からの改革も必要です。

一方で、物理的な働きやすさだけでなく、精神的なサポート体制の強化も欠かせません。精神的なストレスの軽減のために、カウンセリング体制の整備や、メンタルヘルス教育の拡充といった対応も進められています。

未来に向けて海保が担う役割

日本は四方を海で囲まれた海洋国家であり、海上保安庁の存在は国の安全に直結するといっても過言ではありません。経済のグローバル化やテロ対策、海洋環境の保全といった課題に的確に対処するためには、高度な知識とスキルを持った職員の安定的な確保と定着が不可欠です。

今回の離職問題は、単なる人材不足としてではなく、海洋国家・日本の安全と独立を支える社会の在り方そのものに関わる、重要な警鐘として捉えるべきです。今後、政府全体としても、持続可能な働き方や人材確保のための施策をより一層強化していく必要があります。

まとめ

2023年度における海上保安庁の職員離職数が過去最多の389人となり、14年ぶりに職員数が減少に転じたという事実は、私たちの安全な生活を支えている現場の課題が顕在化したものでした。変化する海洋安全保障環境の中で、職員一人ひとりが責任感と誇りを持って働ける職場づくりが急務となっています。

私たち一人ひとりも、海上保安庁の活動とそれを支える人々に関心を持ち、彼らの努力に感謝する気持ちを忘れずにいたいものです。今後、誰もが安心して働くことができ、持続可能な海洋国家としての歩みを進めるためにも、国全体で支援していく姿勢が一層求められています。