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次長課長・河本準一、“笑い”から“伝統工芸”へ──文化継承に挑む人生第二章

2024年6月、吉本興業のお笑いコンビ「次長課長」の河本準一さんが、お笑い以外の分野で注目を集めている。今回話題になっているのは、彼の“伝統工芸”への熱い思いと行動だ。京都における伝統産業の衰退に心を痛めた河本さんは、自ら伝統工芸品の魅力を発信するプロジェクトを立ち上げ、公私にわたって真剣に取り組んでいる。

河本準一さんといえば、バラエティ番組やコントなどで見せる独特のキャラクターと間の取り方で、多くのファンを持つ実力派芸人だ。1975年に岡山県で生まれ、1994年に井上聡さんとコンビ「次長課長」を結成。最初は地道な活動を続けながら、2000年代に入りテレビ出演が増え、人気が全国区となった。「やっちゃいなよ!」の決めゼリフで一世を風靡し、現在に至るまで多方面で活動しているベテラン芸人の一人である。

そんな河本さんが次なる舞台と定めたのは、“伝統工芸”という、まったく異なるジャンルだった。彼がこの分野に関心を深めたきっかけは、コロナ禍を機に立ち止まり、自分のルーツと向き合ったことにあった。それまで「お笑い」という目まぐるしい世界に身を捧げてきたが、その裏で日本の“本物の美”が静かに、そして確実に消えていっていることに気づいたのだ。

特に彼の関心を引いたのが、京都の西陣織や京友禅といった伝統織物や、数百年以上続く漆器、陶器、木工細工などだった。どの職人も高齢化や後継者不足に悩み、新しい市場の創出にも苦労している。それでもなお、職人たちは信念を持って手作業にこだわる。

「これは単なるモノづくりではなく、魂の継承だ」と河本さんは語る。彼は単に伝統工芸を応援するだけではなく、自らが体験・発信・広報の中心となって、リアルな価値を世の中に伝えようとしている。

この想いが形になったのが、「京都伝統芸讃プロジェクト」だ。この企画は、伝統工芸の現場を訪れ、職人から直接技術や歴史を学び、そこに笑いやエンタメの要素を取り入れて広く紹介するというもの。河本さんの持ち味であるトーク力や人懐っこさを生かし、伝統工芸に対し少し敷居が高いと感じる若者や外国人にも届くような工夫がされている。

また、このプロジェクトでは「見る・買う・使う・知る」の4つの視点から体験プログラムが組まれている。単なる展示や販促活動ではなく、実際に工房で作品ができる過程を見学できたり、自分で工程の一部を行ったりと、参加者が“実感できる”工夫がされている。

河本さんは自らこうした体験の先頭に立ち、あるときは漆器の塗り工程に挑戦したり、またあるときは伝統の染色技法である「型染め」に挑んだりしている。彼の真剣な眼差し、慎重に筆を動かす姿、職人との笑顔のやり取りは、普段のテレビで見る芸人とは全く違う顔を見せてくれる。だが、それこそがこのプロジェクトの魅力だ。

職人もまた、河本さんに心を開いている。ある京焼の職人はこう語っている。「我々の世界に、こうして足を運んでくれる芸人さんは珍しい。でも、河本さんは本気で学ぼうとしてくれる。だから話していてこちらも嬉しくなるし、刺激をもらえる」

さらに河本さんは、これらの活動を通じて、新しい商品開発にも取り組んでいる。伝統の技術に、現代的なデザインや機能性を取り入れながら、新たなマーケットを切り拓くことを目指しているのだ。単なる芸人による“話題づくり”ではなく、地に足のついた現場密着型の取り組みであることがわかる。

こうした彼の活動はすでに多方面から評価を受けており、行政機関とも連携し、観光振興、地域活性にも貢献している。また、これからは京都にとどまらず、全国の伝統工芸にも取り組みを広げていく構想もあるという。将来的には、河本さん自身がオーナーを務める「伝統工芸セレクトショップ」や、「体験型工芸パーク」の設立も視野に入れているとのことだ。

もちろん、この活動には多くのエネルギーと時間が必要だ。だが、それでも彼は言う。

「僕が芸人として目立つより、日本の“昔ながら”の魅力が輝くことで、未来の誰かがそれを引き継いでくれたら、それ以上の幸せはないです」

すでに“笑い”で多くの人を元気づけてきた河本準一さん。今度は、“本物”で人々の心を豊かにしようとしている。人生第二章としてのこの挑戦は、単なる副業や趣味といったレベルではなく、自身の人生そのものを投じた“文化継承”という一大プロジェクトだ。

今後の展開に大いに注目が集まる。