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「子どもの健康を守る現場が限界に──学校医不足が突きつける教育と医療の危機」

近年、学校現場における医療サポート体制の崩壊が危惧されています。その問題の一端として、今、大きな注目を集めているのが「学校医不足」です。文部科学省が示すデータや実際の医師の声から、現場が直面している課題の深刻さが浮き彫りになっています。この記事では、学校医に関する現状や背景、今後の課題について詳しくお伝えします。

学校医とは何をする人?

そもそも「学校医」とは、学校の児童・生徒の健康診断を行い、健康上の問題に対処する役割を担う医師のことです。学校保健安全法によって、自治体や私立学校は児童・生徒の健康保持のために学校医を配置することが義務づけられています。

学校医の主な仕事としては、年に1回以上実施される健康診断への立ち会い、学校内での衛生状態の確認、感染症拡大時の指導や助言などが挙げられます。また近年では、熱中症や新型コロナウイルス、さらには子どものメンタルヘルスケアへの対応など、学校医への期待と業務は年々増加傾向にあります。

担当地域で10校以上を受け持つ学校医も

2024年6月に報道された内容によれば、学校医の不足が深刻になりつつあり、一人で10校以上を担当しているケースも珍しくありません。ある地域では中学校、小学校、場合によっては特別支援学校に至るまで、10校超の担当を求められている医師もいるとのことです。

このような状況では、限られた時間の中で各校を訪問し、必要な業務を行うことは極めて困難です。診療所での業務と並行して学校医の職務を果たさねばならないため、医師の負担は計り知れません。

学校医を取り巻く背景には高齢化も

学校医不足の背景には、医師全体の高齢化の問題もあります。かつては地域の開業医が積極的に学校医を引き受けていたものの、高齢により地域医療を引退する医師が増え、後継者も少ないのが現状です。

また、若手の医師にとっては学校医の仕事が「収益になりづらい」「本業に支障が出る」といった理由で敬遠されやすい傾向にあり、結果として新しい担い手がなかなか現れません。

報酬や業務量に見合わない現実

学校医という仕事のもう一つの課題に、報酬や業務量のバランスがあります。学校医に支払われる報酬は、1校あたりに年間数万円程度というのが一般的です。その金額で年に何度も学校へ訪問し、熱中症対策のアドバイザーとして呼ばれる、一部保護者からの問い合わせに対応する、といった業務を担うのは非常に厳しいものです。

中には、自身の病院の外来診療を調整しながら、学校での健康診断に赴く医師もいます。医師としての業務が立て込む時期や、自身の体調不良が重なると、スケジュール調整は限界を迎えます。

文部科学省も危機感

こうした現状に対して、文部科学省も一定の危機感を示しています。2023年度には全国の学校医の配置状況などを調査し、その結果を踏まえて、今後の改善策の検討を進める予定です。

政府レベルで学校医制度の見直しや処遇改善が進められることが期待されますが、それには国だけでなく、地方自治体や地域医師会との連携も不可欠です。編集部でも、各地の具体的な取り組みや成功事例などを注視していく必要があります。

地域の支援がカギに

こうした難題に向き合うために、地域全体での支援や協力が不可欠です。例えば、現役の開業医だけでなく、リタイアした医師や大学病院に勤務する医師が一部の業務を担う仕組みがあれば、負担は大きく軽減できます。

また、近年注目されている「オンライン健康相談」など、ICT技術を活用した支援体制の構築も効果的です。これまで対面での対応が基本だった業務も、部分的にリモートで行うことで、時間の制約も軽減される可能性があります。

保護者や地域住民の理解も大切に

学校医不足という問題は、単に制度の見直しや人的リソースの不足だけでなく、関係者の理解と協力にも大きく関わっています。保護者側の理解不足がトラブルの元になることも少なくありません。

「なぜ学校に医師が常駐していないのか?」、「健康診断の日に医師が来なかった」など、誤解や不満の声が上がることもありますが、その背景には現場に立つ医師たちの奮闘と現実の限界があります。子どもの健やかな成長を守るためには、関係者が一丸となってこの課題に取り組んでいく必要があります。

今後に求められること

今後、持続的で安定した学校医体制を構築するには、以下のような取り組みが求められます。

– 学校医への報酬見直し:適切な報酬の設定により、若手医師を含めた人材確保を促進
– 業務分担・効率化:ICT導入などによる負担軽減
– 医療と学校の「橋渡し」役となるコーディネーターの配置
– 開業医や病院・大学病院との連携体制の構築
– 保護者・地域への啓発活動:学校医の役割や限界についての理解促進

まとめ:子どもの未来を支える仕組みづくりを

誰しもが通ったであろう小中学校。その中で行われていた健康診断や保健指導は、目に見えづらいけれど重要な「子どもの健康を守る」取り組みです。そしてそれを支えていたのが、地域の学校医たちでした。

今、そうした体制が大きな転換期を迎えています。現場の負担に目を向け、医師や関係者を孤立させない施策を講じることが、今後の課題です。子どもたちが健やかに成長できる環境を守るその第一歩として、地域全体で支え合う仕組みづくりが求められています。