タイトル: 小学4年生のバリスタが話題に――「コーヒーは大嫌い」でも夢中になれる理由とは?
「コーヒーって苦くて嫌い。でも、淹れるのは楽しいんだ」——。
そんな印象深い言葉とともに、いま一人の小学生が大きな注目を集めています。ある日、愛知県岡崎市で開かれたコーヒーの入れ方を競うイベント、その参加者の中にひときわ人目をひく小学4年生の少年がいました。まだ身長も小さく、コンテスト用のバリスタエプロンが少し大きく見えるその姿。彼の名前はリクくん。現在10歳です。
この記事では、コーヒーが「飲むのは大嫌い」と語る少年が、なぜそれほどまでにバリスタとしての道に夢中になっているのか。そして、大人の世界のように思える「コーヒー」に、小学生がどのように関わり、どんな成長を見せているのかをご紹介します。
■「コーヒーは苦いから嫌い」——それでもバリスタになりたい理由
リクくんは「ブラックコーヒーは苦くて、とても飲めない」と笑います。いわゆる“コーヒー好き”ではありません。ではなぜ、コーヒーというジャンルの中に足を踏み入れたのでしょうか。そのきっかけは、お父さんの趣味でした。
リクくんは幼いころから、父親が家で丁寧にコーヒーをハンドドリップする姿を見てきました。その様子はまるで魔法のように見えたと語ります。豆を挽き、お湯の温度を測り、ゆっくりと注ぐ。そのひとつひとつの動作に意味があり、繊細な所作が求められる。そんな「職人のような世界」に興味を持ったことが、リクくんがバリスタを志す原点になりました。
彼はこう話します。「コーヒーを入れるのって、楽器を演奏するのに似てると思った。音は出ないけど、見る人がリラックスしたり、喜んでくれるのが嬉しい」
■大人も驚嘆、10歳の技術とセンス
リクくんが出場した大会は、日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)などが主催する「ハンドドリップ選手権」。当然のことながら、出場者の多くはプロのバリスタや腕に自信のある大人たちです。その中に、一人だけ小学生が混ざる格好になりました。
当初、大会関係者も「どこまで本気なのか」と半信半疑だったといいます。しかし試技に入ると、リクくんの腕前は会場を驚かせました。抽出の安定感、器具の扱い、動作の滑らかさ――どれを取っても、10歳とは思えないほどの完成度。そして何より印象的だったのは、「お客様に美味しいと思ってもらうために、心を落ち着かせて丁寧に注ぐ」という本人の姿勢でした。
実際に試飲した審査員からは、「非常にバランスが取れた味」「香りの立て方が上手」と評価され、会場は大きな拍手に包まれました。
■「完璧じゃないから、もっと練習したい」——挑戦し続ける姿勢
イベント後、本人に感想を聞くと、「今回はちょっとお湯の温度が高すぎた気がする。もう少し低めでも良かったかも」と、冷静に自身のパフォーマンスを振り返っていました。
「まだまだ練習が足りないよ」と話すリクくんは、普段から毎日欠かさず、自宅でドリップ練習を続けているそうです。味見は苦手なため、いつも両親に飲んでもらい、フィードバックをもらって改良を重ねています。ただ「自分で飲めない分、家族が喜んでくれる顔を見ると、もっと上手くなりたくなる」と、まっすぐに語る姿が印象的です。
また、一緒に大会に参加した父親も「続けたがる本人がすごい。こちらから無理にやらせているわけではないので、完全に本人の意思」と話しており、リクくんのやる気と粘り強さが周囲を驚かせているようです。
■子どもだからこそ持てる強さと感性
大人の世界と思われがちなコーヒーの世界に、小学生のリクくんのような存在がいるというのは、ちょっと意外な話かもしれません。しかし、子ども特有の素直さや柔軟な感性は、この分野においても大きな武器になります。
大人が理屈で理解し、テクニックを使って完成させようとするのに対し、リクくんのような若い感性は、直感やひらめき、そして人の反応に真っ直ぐ向き合うことができる。それは見る人の心を惹きつけ、飲む人の気持ちをほぐすコーヒーにつながっていくのかもしれません。
もちろん、経験や知識はこれから積んでいく必要があるでしょう。でも、「好きこそ物の上手なれ」ではないですが、情熱や楽しむ気持ち、そして努力を惜しまない心があれば、年齢は関係ない——そう思わせてくれるエピソードです。
■将来の夢は「淹れたコーヒーで誰かを笑顔にしたい」
「大人になったら、自分の喫茶店を開きたい」と話すリクくん。今はまだコーヒーの味が苦手ですが、もしかしたら数年後、味覚が変わり自分でも楽しめる日が来るかもしれません。それでも、彼は明確に言います。「自分が好きじゃなくても、飲んだ人が『美味しい』と言ってくれるのが嬉しい」と。
料理人にとっても、「自分が食べたいものを作る」スタイルと、「お客様が何を求めているかを考える」スタイルがあり、どちらが良い悪いではありません。しかし、10歳の彼が後者の視点をすでに持ち合わせているところに、成長の可能性と社会への扉が見えてきます。
■子どもたちの可能性を信じて
リクくんのように、ひとつのことに夢中になり、そこから多くを学んでいく子どもたちの姿は、私たち大人にも大切なメッセージを与えてくれます。それは「年齢に縛られず、好きなことを続けることの大事さ」そして「誰かのために一生懸命になることの尊さ」です。
受験や成績だけが重視されがちな現代の教育環境の中で、こうした「情熱を形にする力」もまた、未来を切り拓く力になるのではないでしょうか。
最後に、リクくんが語った言葉を紹介します。
「ぼくはコーヒーが飲めないけど、みんなの“おいしい!”が力になる。それだけで頑張れる」
この言葉の中に、私たちが忘れがちな「夢を追いかける純粋さ」と、それを温かく見守る社会のあり方が、静かに、しかし力強く表現されていように思います。これからのリクくんの挑戦が、多くの人に勇気と希望を与えてくれることを願ってやみません。