2024年7月、大阪の街において突如、演劇界と芸能界に旋風を巻き起こすニュースが舞い込んできた。それは、俳優・内野聖陽(うちの・せいよう)と女優・一路真輝(いちろ・まき)の再共演である。しかも、それは舞台「ヘンリー六世」の上演という、シェイクスピアの壮大な歴史劇の中での共闘である。かつて結婚し、離婚を経た2人が再び同じ舞台に立つという事実は、演劇ファンのみならず、多くの人々の関心を集めている。
このニュースは、多くのメディアに取り上げられるほどインパクトがある。役者として高い評価を受けている2人が、私情を越えて一つの作品に向き合う姿勢は、多くの人々に感銘を与えている。今回は、その舞台の詳細と共に、内野聖陽と一路真輝という2人のキャリアを振り返りながら、この話題の舞台の魅力について迫っていきたい。
■舞台『ヘンリー六世』──重厚なる歴史劇での再会
「ヘンリー六世」はウィリアム・シェイクスピアが手掛けたイギリス薔薇戦争時代の王・ヘンリー六世を中心とする三部構成の歴史劇。今回の日本公演は一日で通し上演される特別な公演であり、その壮大なスケールはかつてないものと称されている。この舞台において、内野聖陽は覇権を巡る男たちの一人として出演し、一路真輝は女性としての強さと儚さを併せ持つ重要なキャラクターを演じるという。
この舞台の企画・演出を手掛けるのは、蜷川幸雄の遺志を継ぐ気鋭の演出家・吉田鋼太郎。吉田自身も劇中に登場し、緻密な演出で物語を牽引していく。その演出に応えるかのように、内野と一路も身体全体で演じきる覚悟を見せている。
元夫婦であることは広く知られており、2006年に結婚、2008年に一児をもうけるも、2011年に離婚している。しかし、今回の舞台にあたってはその過去よりも、今現在を全力で生きる俳優としての姿勢が何よりも尊ばれている。
■内野聖陽──重厚な役を演じ続ける実力派俳優
内野聖陽は、1968年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学第一文学部を卒業後、劇団文学座に入団し、舞台を中心に活動を始めた。1990年代から2000年代初頭にかけてはテレビドラマでも存在感を示し、NHK大河ドラマ『風林火山』や、テレビ朝日『臨場』シリーズなどで一躍人気俳優の仲間入りを果たした。
特に注目されたのは、2019年に放送されたNHKの連続ドラマ『きのう何食べた?』で演じた主人公・筧史朗(通称シロさん)役である。中年ゲイカップルの日常を描いたこのドラマで、同性愛者のごく普通で自然な姿をリアルに演じたことが大変な話題となり、LGBTQ+の当事者や支援者からも支持を集めた。シリアスな役柄から柔和な人間像まで幅広く演じることができる彼の演技力は折り紙付きであり、今回の「ヘンリー六世」でもその力が発揮されることだろう。
また、舞台人としての彼のストイックさも知られており、毎回その作品ごとに全く異なるアプローチで役に挑むため、共演者や演出家からの信頼も厚い。今回の舞台でも、そのような内野の姿勢が、観客の胸を打つであろう。
■一路真輝──宝塚からミュージカル界の女王へ
一方の一路真輝は、1965年の東京都生まれ。1981年に宝塚音楽学校に入学、1983年に宝塚歌劇団に入団して以来、男役として活躍。特に1990年代に雪組トップスターとして、当時のミュージカルファンに深い印象を残した。代表作には『ベルサイユのばら』や『JFK』などがあり、その華やかさと存在感は「宝塚の顔」と評されるほどであった。
1996年に宝塚を退団後は、東宝ミュージカルを中心に活動し、『エリザベート』では皇后エリザベートを演じて話題を呼んだ。彼女の透明感ある歌声と繊細な表現力は、観客を物語の中に引き込む力を持っており、宝塚退団後も第一線で活躍し続けている。
また、彼女自身の人生経験が役の深みに繋がっており、特に母親役や歴史上の女性像には説得力のある演技を見せる。今回の「ヘンリー六世」でも、王妃マーガレット役として、運命と野心に翻弄される壮絶な女性像を演じる予定であり、多くの観客が彼女の演技に引き込まれることだろう。
■共演という奇跡──“過去”ではなく“今”を見てほしい
元夫婦が同じ舞台に立つというのは珍しいが、それ以上に重要なのは、2人が“俳優”として互いを尊重し、共演するという事実だ。今回の企画に至るまでには「元夫婦」だからこそ生まれる緊張や葛藤もあったかもしれない。しかし、それさえも演劇という芸術の求心力によって乗り越え、「唯一無二の舞台を創る」という覚悟に変わっている。
舞台はフィクションではあるが、そこに生きる役者たちの“人生”そのものが投影される瞬間がある。内野と一路が同じ板の上で感情をぶつけ合い、命を燃やす姿は、観客にとってもかけがえのない体験となるに違いない。それは、単に「元夫婦の共演」という話題性を超えて、深い芸術体験として心に刻まれるはずだ。
■まとめ──この瞬間を見逃すな
演劇というのは、二度と同じ形にはならない生きた芸術である。「ヘンリー六世」という一大歴史劇を通して、内野聖陽と一路真輝という2人の大ベテラン俳優が見せる“今”の姿は、まさに奇跡の融合だと言える。
これまで歩んできた異なる道、交錯した人生、そしてそれを越えて同じ舞台に立つ勇気。その全てが込められた舞台『ヘンリー六世』は、2024年下半期、間違いなく最も注目される演劇作品となるだろう。
その瞬間を、ぜひ劇場で目撃してほしい。