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デモの先にあったもの──奥田愛基が歩む「祈り」と「生」の物語

「生きる意味」を問う革命家──元SEALSリーダー・奥田愛基さんが辿り着いた「宗教」への道

かつて日本の政治を揺るがした若者たちの運動――2015年、安保法案に反対する全国的な抗議運動が盛り上がりを見せる中で、SEALDs(Students Emergency Action for Liberal Democracy-s)という学生団体が存在感を放った。当時、この団体の顔としてメディアに何度も登場し、鋭い言葉で政治の在り方を問うたのが、奥田愛基(おくだ・あき)さんだった。

あれからおよそ9年。今、奥田さんは「宗教」というまったく新しいフィールドで再び「伝える」活動を始めている。

奥田愛基さんは、1992年生まれ。福岡県の出身で、筑紫女学園大学で学んだ後、明治学院大学の国際学部へ進学。特に社会問題や国際関係に深く関心を抱き、学生時代から政治に対する自覚的な姿勢を強く持っていた。

2015年、当時23歳だった奥田さんは、若者の政治的関心の低さに危機感を抱き、SEALDsを設立。彼の明快な言葉遣いやメッセージ性の強さ、そして落ち着いた語り口は、多くの若者のみならず年配層にも強い印象を残した。国会前で開かれた大規模デモでは数万人の参加者を動員し、「民主主義って何だ?」「これだ!」というコールは大きな社会的インパクトを与えた。

しかし、その運動の後、SEALDsは2016年に解散。表舞台から姿を消した奥田さんは、その後何をしていたのか──。

今回注目を集めたのは、彼が「キリスト教」に救いと意義を見出し、宗教者として新たな人生を歩み始めているという事実だった。2024年現在、奥田さんは東京神学大学大学院の博士課程に在籍し、牧師を目指している。そして、キリスト教に基づく言葉で「人間の生き方」や「弱さとどう向き合うか」といったテーマについて語り続けているのだ。

「政治と宗教は遠いものではない」と語る奥田さんにとって、宗教とは世界を変えるためのツールではない。しかし、「人間がなぜ生きるのか」「苦しみの意味とは何か」「人はなぜ争うのか」という根源的な問いに向き合う中で、宗教が果たす役割を強く実感するようになったという。

彼は今も、かつてのような激しいスローガンを叫ぶわけではない。しかし、かえって静かな語り口が聴く者に深い問いを投げかける。たとえば、YouTubeチャンネル「おくたいむ。」では、自身のこれまでの経験や信仰について、自室と思しき場所からさりげなく発信している。言葉は鋭さを残しつつも、どこか優しさと柔らかさをまとっている。

なぜ、彼はその道を選んだのか――。

奥田さんは過去の発言の中でこう述べている。「デモの後って、『で?』って言われる。変わらなかったじゃんって。だけど、最も変わったのは僕自身だったんだと思う」。政治活動とは結果を求められる世界だ。人々の期待にさらされ、敵意と無理解の中で闘い続ける日々は簡単ではなかった。時に「ヒーロー」のように担ぎ上げられ、時に「出すぎた若者」として批判される。「自分が何者なのか」が見えなくなる局面もあったという。

そんな混乱の中で、自分自身の内面と向き合い、「弱さを抱えたままでもいい」と思える場所を見つけたのが、教会だった。孤独の中で沈黙する夜、見えない未来への不安、そして責任感に押し潰されそうになった日々──奥田さんは、「何かを変える前に、自分の内面に正直であるべきだ」と気づいたのだろう。

まさに、SEALDsで体験した社会変革への希求と、宗教的な精神変容が交わる点に至ったのだ。

「宗教的な言葉で語ることで、政治では届かなかった人々の心に触れることができるかもしれない」。そう語る奥田さんには、もはや「変化を起こすこと」そのものだけが目的ではない。むしろ「苦しんでいる誰かと共にいること」「人が希望を失わないように寄り添うこと」こそが彼のミッションなのだと感じられる。

各地で若者の自殺が後を絶たず、未来に希望を抱きにくい現代社会において、「生きる意味」や「自分の価値」に迷う人は少なくない。そんな中で、奥田さんは「人それぞれの痛み」に正面から向き合おうとしている。

特筆すべきは、彼が決して過去を否定していないことだ。SEALDsもまた、彼にとってかけがえのない経験だった。その上で、これからは政治的活動ではなく、「生きるとは何か」に焦点を当てたメッセージを伝えていくという。

彼の言葉が持つ力は、相手を打ち負かすための「力強さ」ではない。不安や孤独を抱えたままの人々に「あなたの存在は意味がある」とそっと語りかけるような強さだ。

奥田愛基さんは、いま「信じること」「祈ること」「語ること」を通して、新しい時代の公共性を探っている。それはニュースにならないかもしれない。デモのように何千人を街に集めるわけでもない。しかし、たったひとりの悩める魂に届ける言葉には、やはり彼らしい優しさと信念が宿っている。

政治活動の最前線から、祈りの言葉へ。奥田愛基さんという一人の若者の歩みは、現代の日本社会において「生きるとは何か」を改めて問い直す、大きなヒントを私たちに与えてくれている。

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