日本ラグビー界の名将エディー・ジョーンズ、復帰後初の記者会見が示した「新生・日本代表」への覚悟と勝算
2024年1月、エディー・ジョーンズが再び日本ラグビー代表のヘッドコーチ(HC)に就任するという発表は、日本ラグビーファンの間に大きな衝撃と期待をもたらした。そして6月13日、ついに都内で復帰後初となる記者会見が開かれた。ジョーンズ氏の鋭い眼差しと力強い口調には、自ら率いるチームに向けた明確なビジョンと確固たる覚悟が感じられた。彼の言葉の一つひとつは、単なるリップサービスではなく、長年の指導者経験と日本ラグビーへの深い愛情に裏打ちされた実践的な戦略に満ちている。
■記者会見で語られた「準備はできている」
「準備はできている。新しいチームを構築する時に必要なのは覚悟と熱意だ」。ジョーンズ氏は開口一番、そう語った。2023年W杯フランス大会でベスト8進出を逃した日本代表。大会後、ジェイミー・ジョセフ前HCが退任し、後任に白羽の矢が立ったのがジョーンズ氏だった。
10年前、ジョーンズ氏が指揮した2015年ワールドカップでは、南アフリカを歴史的な番狂わせで破り、日本ラグビー史にその名を刻んだ。再び指揮官として戻ってきた今回は、当時とは異なる条件とチーム状況下で、より大きな挑戦に立ち向かう。
会見では、複数の日本人選手が海外リーグで戦っている現状について「彼らが成長することで、日本のラグビーの底上げにつながる」と前向きに捉える姿勢を示し、「国際的な経験を積んだ選手たちが戻ってくれば、チーム内に質の高い競争が生まれる。それが代表の強化には不可欠だ」と語った。
■「スピードとスタミナ」──新たな日本代表の武器
ジョーンズ氏は今回の会見で、日本代表の新たな戦略として「スピードとスタミナ」を強調した。体格で劣る日本が世界の強豪と互角に戦うための術として、「フィットネスの徹底的強化」こそがカギになると断言。「ペースを上げ、相手が疲弊する瞬間を突く」スタイルを追求するという。
また、「新しいプレーヤーたちの台頭が必要」と述べ、選手選考においては若手や未知数の選手にも積極的にチャンスを与える考えを示した。新生・日本代表は、既存の枠にとらわれず、才能ある若手たちを中心に大胆に生まれ変わる可能性が高い。
■豪州代表時代の試練と学び
エディー・ジョーンズは1950年にオーストラリアで日系人家庭に生まれ、学生時代からラグビーに取り組んできた。1970年代後半にはオーストラリア代表候補に名を連ねるも、代表キャップはなし。その後日本に渡り、東海大学で英語教師をする傍ら、指導者としての道を歩み始めた。サントリーサンゴリアスでの指導は、彼にとって日本ラグビーとの長年にわたる“縁”の始まりだった。
2001年にはオーストラリア代表のヘッドコーチに就任。2003年ラグビーW杯では母国を決勝まで導き、イングランドと死闘の末に準優勝。その後、南アフリカ代表のテクニカルアドバイザーとして2007年のW杯優勝に貢献。そして2012年から2015年までは、日本代表のヘッドコーチを務め、先述の「ブライトンの奇跡」と称される南ア撃破を成し遂げた。
エディーにとって、成功と同様に数々の苦労と失敗もまた、現在の哲学を形成する重要なピースとなっている。
直近ではイングランド代表、そして2023年には再び母国オーストラリア代表HCに復帰。しかし、ワールドカップでグループリーグ敗退という結果に終わり、世論の批判が集中した。しかしこの短期間の在任も、彼にとっては学びの場だったという。
「結果は望んだものではなかったが、多くの教訓を得た。チームとの信頼関係がすべてだと再確認した」と語るその表情には、自らの責任を真正面から受け止める誠実さがにじむ。簡単に過去を振り返ることはしないが、その失敗すらも次への糧とする姿勢こそ、ジョーンズ氏が真の名将たる所以といえるだろう。
■2年後のW杯、そして2031年へ
エディーが目指す先は、2027年オーストラリアW杯、そして2031年アメリカでのグローバル展開を見据えたラグビーの成長戦略にまで及んでいる。
「私の使命は、世界で戦える日本チームを再び作り出すことだ。そして、それと同時に日本国内でラグビー文化を根付かせていくための土壌作りにも全力を注ぎたい」と語る通り、その視野は広く、深い。
エディー・ジョーンズは現場の勝利だけを求める指導者ではない。ジュニア世代の育成、指導者の教育、そして競技環境の整備といったラグビー全体の発展に向けた取り組みにも注力しており、そのためにこそ「もう一度日本で挑戦したい」と復帰を決断したのだという。
■代表戦に向けて期待高まる「新たな一歩」
今年7月にはジョーンズ体制下の実戦が始まる。新たにどのような選手が台頭し、どのような戦い方を見せるのか。ファンの注目は高まるばかりだ。
企業スポーツからプロ化への過渡期ともいわれる日本ラグビー界。そんな中、国際的な視野と構造改革の両面で成果を上げてきたエディー・ジョーンズの知見は、まさにこのタイミングでこそ必要とされている。
60代半ばを迎えなお、就任会見では「これが人生最後の挑戦かもしれない」と語る彼の姿は、どこまでもエネルギッシュで、そして真摯だ。
多くの困難をくぐり抜けてきた男は今、再び「日本のため」にタッチラインに立つ。ラグビーを通して日本の心を、そして世界とのつながりを育てるために──。
エディー・ジョーンズという稀代の名将の新たな挑戦。私たちはその旅路を、熱い視線で見守っていくことになるだろう。