「証拠を残す勇気」 〜ジャニーズ性加害問題を検証する、永岡桂子文科相と藤島ジュリー景子前社長の対照性〜
2024年6月17日に報じられた、旧ジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)をめぐる性加害問題。その渦中で、新たに注目を浴びている人物がいる。文部科学大臣・永岡桂子氏である。
永岡氏は、自身が加害行為を一度目にした際に、その内容を詳細にメモとして残していたことを証言した。「当時、私が目撃したことは本当に衝撃だった。目をそらしたくなるような場面を前にして、これをこのままにしてはいけないという思いから、すぐメモを残した」と彼女は語っている。
一方、この構造的な性的加害に向き合う中で、当時、ジャニーズ事務所の実質的なトップとして社長を務めていた藤島ジュリー景子氏の対応はたびたび“遅きに失した”という批判にさらされてきた。彼女もまた、性加害の存在を「週刊誌報道などを通じて」知っていた可能性があると公言しているが、実際の行動として何をしたのかは不明な点が多い。今回の報道では、両者の「記録を残す」という姿勢に大きな隔たりがあったことが浮き彫りとなった。
■ 永岡桂子とは何者か
永岡桂子(ながおか けいこ)文部科学相は1953年生まれ、茨城県出身の政治家で、自民党所属の衆議院議員。初当選は2005年、いわゆる「小泉チルドレン」として国政に登場した人物だ。医療や教育に関心が高く、文部科学副大臣、大臣政務官などを経て、2022年より文部科学大臣を務めている。
今回の性加害問題では、文科相として再発防止のガイドライン作成に関与し、学校や教育現場での性被害防止策にも力を入れている。
永岡大臣がメモを残したのは30年以上前、当時ジャニーズ事務所のイベントか何かで起きた違和感を覚えるような現場であったとされる。彼女は被害者の声が届きにくい当時の社会的背景の中で、「証拠を残す行動」がどれほど重要であるかを直感的に理解していたのかもしれない。そして、それを今になって公の場で語ったことには、大きな意味がある。沈黙が支配していた過去に向き合う姿勢、それこそが政治的なリーダーの役割なのかもしれない。
■ この30年間、なぜ誰も“証拠”を残さなかったのか
永岡氏のように「証拠を残していた」という人が事務所外に存在していたにも関わらず、ジャニーズ事務所内部では証拠はほとんど残されず、長年にわたり加害行為は隠蔽されてきた。関係者の「阿吽の呼吸」「空気を読む文化」が、組織内で“言ってはいけないこと”を作っていったのではないかという指摘もある。
その意味で、藤島ジュリー景子氏の対応も再検証の対象となるだろう。藤島氏はジャニー喜多川元社長の姪であり、2019年にジャニーズ事務所の社長に就任。2022年に性加害問題が公になった後、2023年には社長職を辞任し、現在は事務所の資産処分および被害者救済に関わる組織SMILE-UP.の責任者的立場にある。
彼女自身、「加害の事実を把握していたか?」との質問に対して、「噂として知っていた」「当時は信じられなかった」と語っていたが、その際に何かアクションを起こした形跡はなかった。今回、文科相の口から「記録を残していた」との発言があったことで、事実に向き合う姿勢の違いがより鮮明となった。
■ ジャニーズ問題は“過去”ではない
重要なのは、この問題が「過去の話」ではないということだ。永岡氏が語るように、教育や芸能、スポーツなど未成年が関わるあらゆる分野における“権力と沈黙の構図”は今もなお存在している。ジャニーズ事務所の問題は象徴的な事例であり、構造的な課題を浮き彫りにしている。
文科省は現在、学校や教育機関に対する再発防止ガイドラインの策定を進めているだけでなく、芸能関連の業界団体とも連携し、未成年の人権を尊重する体制づくりを急いでいる。再発防止、そして被害者の声に真正面から耳を傾ける姿勢こそが、社会全体を変える鍵となる。
一方で、藤島ジュリー景子氏は2024年4月に開かれた会見で涙ながらに謝罪したが、今後の再発防止策に向けての具体的なビジョンや手段はまだ発表されていない。これは「謝罪」から「行動」への移行が待たれている状態と言える。
■ 知る責任・語る勇気・記録する意志
「性加害を見た」と多くの人が口を閉ざし続けてきた中で、永岡氏は30年以上前に目撃した異常事態を「メモする」という行動で記録に残した。それは、声にならない被害者の代弁ではない。むしろ、「自分が何を見て、何を思ったかを忘れないための記録」であり、それが今、公の場で意味を持ちはじめたのだ。
対する藤島氏は、内部の空気、市場の存在、メディアとの関係。多くの要因によって沈黙を選ばざるを得なかったのかもしれない。ただ、その沈黙が積み上げた年月の中で、失われた声が無数にあることを忘れてはならない。
2024年にしてようやく、「目の前で起きていた事実」が政治家の口から語られたことで、重い扉がまたひとつ開いた。
記録を取ること。
忘れないこと。
語り継ぐこと。
この3つの小さな勇気が、同じ過ちを繰り返さない力となる。
永岡桂子という一人の政治家の「記憶」と「記録」が、これから社会が歩むべき道を照らしている。