人事担当者の苦悩―ホワイトすぎる職場で起きる若手社員の早期退職とは?
近年、働き方改革や労働環境の改善を背景に、「ブラック企業」という言葉が世間に広まり、企業側も労働時間の短縮や福利厚生の充実など、従来よりも「ホワイト」な職場づくりに力を入れるようになってきました。しかし一方で、「働きやすさ」を追求しすぎたがゆえに、思わぬ課題が浮かび上がっていることをご存じでしょうか。
それが、「ホワイトすぎて若手社員が辞める」という現象です。
これは一見、矛盾しているように思えるかもしれません。「ホワイトな職場であれば、働きやすく、定着率も高くなっていくのではないか?」と。しかし、現場の人事担当者は今、これまでとは異なる新たな課題に直面しているのです。
本記事では、「ホワイトすぎる職場」でなぜ若手社員が離職するのか、その背景や企業がとるべき対策について掘り下げていきます。
「理想的な職場」がもたらす意外な副作用
働き方改革の推進により、残業時間の削減や休日の増加、有給休暇の取得促進、育児・介護への配慮など、企業の労働環境はここ数年で大きく改善されてきました。社員にとって心身の健康を保ちやすく、仕事とプライベートのバランス(ワークライフバランス)も整えやすくなり、こうした労働条件の改善は多くの働き手に歓迎されています。
しかし、特に若手社員については、こうした“過剰な優しさ”が結果的に仕事に対する意義ややりがいの喪失につながっていると指摘されています。
ある企業の人事担当者によると、新入社員や若手社員は十分なケアと配慮を受けているにもかかわらず、数年以内に「成長実感が得られない」「やる気が出ない」「期待されていないと感じる」などの理由で退職していくケースが増えているといいます。
新人に挑戦を与える難しさ
企業は労働時間やメンタルヘルスへの配慮から、若手社員に過度なプレッシャーをかけたり、難易度の高い業務を任せることを避ける傾向があります。しかしこれが裏目に出ることがあります。
若手社員の多くは高校や大学を卒業し、強い意欲と期待を胸に社会に出てきます。仕事を通じて自己成長したい、周囲に認められたい、社会に貢献する自覚を持ちたいと考える人は少なくありません。ところが、過保護ともいえるような環境では、その「成長したい」という欲求が満たされず、結果として「このままここにいても得られるものが少ない」と感じてしまうのです。
現代の若者は「働きすぎたくはないが、意味のある仕事がしたい」と考えているとも言われており、単に“楽な仕事”だけでは満足できないという複雑な心理を抱えています。
「育成」と「挑戦」のバランス
問題は、「働きやすさ」と「やりがい」のバランスにあります。
人事担当者やマネジメント層は、若手社員を長期的に戦力として育てるために、ある程度は「守る姿勢」をとらざるを得ません。しかし、その一方で、彼らが業務を通じて達成感や挑戦心を感じられる環境づくりも重要です。
ある企業では、若手にいきなり大きな責任を持たせるのではなく、「小さな成功体験」を積ませる仕組みを導入しているそうです。たとえば、プロジェクトの中で一部分を任せたり、先輩社員とバディ制度を組んで仕事を進めたりすることで、「やればできるんだ」と思える自信を育てています。
また、定期的にキャリア面談を行い、「次にチャレンジしたいこと」や「今の業務に対する悩み」などを丁寧に聞き取る仕組みも、若手のモチベーション維持には効果的だとされています。
「ホワイト化」の次にくる課題
働きやすさの追求は、もはやどの企業も取り組むべきスタンダードです。しかし、ただ“優しい環境”を提供すればよいというわけではありません。
社員が「ここで成長できる」「期待されている」と感じられること。これはモチベーション維持や定着率向上にとって非常に重要な要素です。そしてこの感覚は、日常の業務や人間関係、評価制度にまで反映されていくものです。
企業が今後、本当の意味で“持続可能な職場”をつくっていくためには、単なるホワイト化だけに留まらず、「成長の機会」「達成感」「やりがい」といった、人が働き続けるうえで欠かせない心の領域にも同時に目を向ける必要があります。
若手がなぜ辞めるのかを正しく理解すること。そのうえで何が必要かを考え、制度やマネジメントを柔軟に見直していくことが、企業の未来を切り開く大きなカギになるでしょう。
まとめ
「ホワイトすぎて若手が辞める」という現象は、一見すると贅沢な悩みのように思えるかもしれません。けれども、そこには現代の若者の価値観や、企業と労働者との間にあるギャップが明確に現れています。
より良い労働環境をつくるためには、単に働きやすさを追求するだけでなく、社員の内発的なモチベーションやキャリア観にもしっかりと対応していくことが求められています。
人事やマネジメントの在り方は、これからますます変化していくでしょう。大切なのは、時代の変化に合わせて「働き方」や「働く意義」を再定義し、社員一人ひとりと真摯に向き合う姿勢です。
企業が若手人材を大切にし、彼らが安心して成長できる場を提供できるかどうか。それが、これからの企業経営に不可欠な成功要因になることは間違いありません。