Uncategorized

誰もが被害者・加害者になりうる――藤沢市ストーカー事件から考える「見えない恐怖」と社会にできること

2024年6月、神奈川県藤沢市内の住宅で女性と見られる遺体が発見されるという痛ましい事件が報じられました。警察の捜査によると、この事件はストーカー被害と関係がある可能性があるとみて調べが進められています。事件に関与したとされる男の存在が浮上しており、被害女性とは過去に交際関係にあったとも報じられています。

このニュースは私たちに、ストーカー行為の深刻さと、十分な対処が必要である現実を改めて突きつけました。かつては「身近な性格の問題」や「単なる行き過ぎた好意」などと誤解されがちだったストーカー問題も、今日では命にかかわる重大な社会問題として、明確な対応が求められています。

この記事では、今回の事件をきっかけに、ストーカー犯罪の背景、法制度、支援体制、そして私たち一人ひとりができることについて考えていきたいと思います。

■ ストーカー行為とは何か?

ストーカー行為とは、相手の意思に反して、何度も繰り返しつきまとったり、連絡したりすることで、不安や恐怖を与える行為を指します。1999年に制定された「ストーカー行為等の規制等に関する法律(通称:ストーカー規制法)」によって、その具体的な行為(例:尾行、無言電話、執拗なメール送信、自宅周辺でのうろつきなど)が法的に規制されています。

ただし、ストーカー行為は多くの場合、初期段階では「好意の延長線上」に見えやすいため、被害者自身が「大げさに騒いでいるのでは」と自責の念にかられ、支援を受けるのをためらってしまうことも少なくありません。

しかし、時間が経ち、加害者の行為がエスカレートするにつれ、被害は深刻化する傾向にあります。今回のように、最悪の事態に至るケースもあるため、早期の対応が特に重要です。

■ ストーカー事件の課題と現状

日本では過去にも多数の重大なストーカー事件が発生しています。中には、事前に警察に相談していたにもかかわらず、殺人事件へと発展したケースもあり、行政の対応の遅れや体制の不備が取りざたされることも多くありました。

そのため、ストーカー規制法はこれまで何度か改正され、防止措置の強化、警告の即時性確保、SNSを通じたつきまとい行為への対応なども行われてきました。

とはいえ、全てのケースに対応しきれているとは言えません。特に、デジタル技術の発展とSNSの普及により、見えにくいかたちでのストーカー行為が増加しています。元交際相手がSNSを通じて行動を監視する「デジタル・ストーキング」も深刻な問題になりつつあります。

■ 被害を防ぐための取り組み

では、私たちはどのようにしてストーカー被害から身を守ることができるのでしょうか。いくつかの対応策を以下にまとめました。

1. 早めの相談と通報
つきまといや違和感のある連絡があった場合、「気のせいかもしれない」と思わず、早めに家族や友人、行政や警察に相談することが大切です。また、証拠を残すこと(LINEのやり取り、通話ログ、訪問時の映像など)も、後の法的対応で有効になります。

2. 個人情報の管理を徹底する
SNSでの位置情報投稿や、生活圏・通勤経路・家族構成などの情報をうっかり公開していないか、今一度見直すことが必要です。住所や電話番号が推測できる写真や動画も、注意が必要です。意図しない情報開示が、加害者に手がかりを与えることにもなりかねません。

3. 匿名相談窓口の活用
各自治体やNPOでは、匿名でも相談できる窓口を設けていることがあります。誰にも相談できない時は、そうした場所を頼ってみることも検討してみてください。

■ 社会としてできること

ストーカー被害は、個人の問題にとどまらず、社会全体のサポートや啓発によって防げる部分も多くあります。

・教育による早期啓発
ストーカー行為の危険性や、相手の同意を尊重する重要性を、学校教育などで早期に教えることで、将来的な加害者や被害者を減らすことができます。

・法制度の強化と運用の徹底
デジタル社会に対応した法改正、そしてそれを現場で適切に運用する仕組みづくりが必要です。そのためには、警察や行政職員など、関係者の専門知識のアップデートがカギとなるでしょう。

・地域の見守り体制
自治体や町内会などが中心となって、孤立しがちな個人を地域全体で見守る体制を整えることも、被害の早期察知に役立ちます。

■ 最後に

今回、女性の命が奪われたという悲しい事件は、あってはならないことです。亡くなられた方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。そして今なお、目に見えない恐怖の中で過ごしている多くの被害者がいる現実を、私たちは忘れてはなりません。

ストーカー行為は、誰にでも起こりうる問題です。「自分には関係ない」と思わず、身近な人の変化に気づいたときには声をかけてあげる、相談しやすい環境をつくるなど、私たち一人ひとりができることがあります。

命を守るために、声をあげること、耳を傾けること。そして社会全体で、安心して暮らせる環境を築くことが、何よりも大切です。

私たちが住む社会が、少しでもこのような悲劇を減らせるように、今一度、足元を見つめ直していきましょう。