6月上旬、テレビやSNSでは衝撃的なニュースが駆け巡った。自民党が設置した政治刷新本部の座長代理を務め、「政治とカネ」の問題解決に強い姿勢を示していた片山さつき参院議員が、政治資金の使途をめぐり、指摘を受ける立場となったのだ。問題の中心は、彼女の資金管理団体「さつき政策研究会」が2022年に開催した政治資金パーティーについてである。
報道によると、2022年5月に都内のホテルで開かれたこのパーティーでは、10枚中7枚の領収書に宛名が書かれていなかった。さらに5万円以上のパーティー券を購入したとされる企業や個人のうち、政治資金収支報告書に記載されたのは12人にすぎず、他の68人近くの名前が記載されていなかった可能性があるという。これは、政治資金規正法に基づく記載義務を怠った疑いがある。
これが問題視される理由は、政治資金パーティーでの収益構造にある。5万円を超えるパーティー券購入者に関しては、政治資金規正法により氏名や金額などの詳細な記載が義務付けられており、透明性を確保するために極めて大切な規定だ。宛名無しの領収書が大量に発行されていたとなると、裏で誰がいくら献金していたのか分からず、資金の流れがブラックボックス化してしまう。このような事態は、まさに彼女自身が所属する政治刷新本部が問題視していた、「不透明な政治資金の使途」を象徴するものだ。
このニュースが社会に衝撃をもたらしたのは、片山氏自身が「改革派」として知られていたからに他ならない。1982年、東京大学法学部卒業後に大蔵省(現・財務省)へ入省。高度な知識と分析力を武器に、財政・税制に関わる分野でキャリアを重ねた。1994年にはフランス留学も経験し、国際的な視野も広げている。約20年の官僚人生の中で、経済構造改革や財政健全化を重視する政策立案に携わるなど、いわば「骨太の政策家」としての評価を築いた。
しかし、彼女の名が全国的に知れ渡るようになるのは、2005年の「郵政選挙」だった。小泉純一郎首相(当時)が断行した郵政民営化に際し、自民党執行部が擁立したいわゆる「刺客候補」の一人として、東京の比例区から初出馬。惜敗に終わったものの、2007年の参院選で見事に初当選を果たした。その後、内閣府特命担当大臣(地方創生・女性活躍)を歴任し、自民党内では政策に明るい理論派議員として重用されてきた。
なかでも異彩を放ったのが、彼女の”バリキャリ”としての言動だ。TV番組に出演した際には、経済・政治・社会保障に至るまで幅広いテーマを論理的に語り、その歯切れのよい物言いが注目を浴びた。時には「女版・竹中平蔵」とも揶揄されるほどに、新自由主義的な改革姿勢を貫くスタンスは賛否を呼んだが、支持層からは「本気で改革に取り組んでくれる人」との信頼を集めた。
しかし、今回の政治資金をめぐる疑念は、図らずもその改革派としての立ち位置に疑念をもたらす形になった。特に、自民党は現在、岸田政権の下で党再建と信頼回復を目指し、「派閥の解消」や「徹底的な資金透明化」などを掲げている最中である。そんな中で、高潔なイメージを持つ片山氏が透明性に欠ける資金処理をしていた可能性が浮上したことは、自民党にとっても痛手だ。
これに対して片山氏は、「収入の販売実態はある」と反論し、「業者側のミスにより宛名が抜けていた可能性がある。企業・個人名などは手元資料では把握しており、訂正報告書を提出する」と釈明している。なお、5月末には一部報道機関からの問い合わせにも丁寧に対応し、あくまで違法性はなかったと強調している。
とはいえ、世間の目はかつてないほど政治資金の透明性に厳しい。背景には、昨年末から表面化した自民党の複数派閥による裏金疑惑がある。安倍派や二階派、岸田派などがパーティー収入の過少記載をしていた疑いが次々と明るみに出ており、その結果、複数の自民党幹部が党内ポストを辞任・退任している。いまや国民は、「政治家全体が信用できない」との不信感を強めており、その空気が片山氏の件にも強く影響している。
驚くべきは、片山氏が自民党の政治刷新本部で中心メンバーとして活動していたという事実だ。この本部では、過去の不祥事について検証を行い、再発防止のためのガイドラインづくりにも取り組んでいた。このような場に立つ人物自らが「形式的なミス」であっても規則に反する行為に関与していたとすれば、国民の信頼を取り戻すどころか、さらに深い疑念を招く結果になりかねない。
片山氏が指摘を受けた政治資金報告書は、日々多くの政治家が記入・提出する極めて重要な書類だ。そして、その精度と正確性こそが、政治資金の出入りの健全さと、政治家のクリーンさを示す指標となる。片山氏のようなベテラン政治家でもミスが起きる以上、今後は「業者任せ」ではなく、本人が責任を持って全てのチェックを行う体制の整備が求められる。
今回の報道が示すのは、一人の改革派政治家への失望だけではない。制度面での甘さ、そして「形式的な処理」の曖昧さに依存してきた政界全体の構造的な課題を改めて浮き彫りにしている。政治家とは、公金を扱う存在である以上、より高い倫理と透明性が求められるのは当然であり、それこそが政治に対する信頼を回復し、本当の意味での改革へとつながる。
果たして片山さつき議員は、この難局をどう乗り越えるのか。そして、再び「改革派」としての信頼を取り戻すことができるのか。政治家にとっての本当の試練は、誤りが指摘されたその後の行動にある。今回の事例が、今一度、政治とカネの関係を見直す契機となることを、多くの有権者が願っている。