ゴールデンウィークの予定提出を求められる会社…何が問題なのか？
春の訪れとともに計画されるゴールデンウィーク（以下、GW）。旅行や帰省、家族や友人との時間など、多くの人にとって年に一度の貴重な連休です。楽しみにしている方も多い中で、最近、ある記事が大きな注目を集めました。それは「会社がGW予定を提出要求 問題は」というタイトルのニュースです。
一見、「予定の提出くらい普通では？」と思われる方もいるかもしれません。しかし、この記事が物議を醸している背景には、働き方やプライベートと業務の線引き、社員の自由意志と企業側のコントロールといった、現代の労働環境におけるさまざまな課題が潜んでいます。
今回は、なぜ「GWの予定を提出してください」という企業の依頼が問題視されるのか、その背景と考えられる影響について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
企業が求める「GWの予定」とは何を意味しているのか
まず、記事の内容を要約すると、一部企業で社員に対して連休中の「個人の行動予定」を提出するように求める事例があるというものです。例えば、旅行の有無、外出の頻度、訪れる予定の場所など、行動の詳細を記載するよう指示されるケースも報告されています。
企業側の説明としては、新型コロナウイルスの流行を背景に、連休明けの感染拡大を防止する目的があると述べられています。また、それにより、職場でのクラスター発生のリスクを抑え、円滑な事業継続を図ることができるという見解も示されています。
しかし、コロナ禍がある程度落ち着いた現在（2024年時点）においても、引き続きこうした記録や報告を求められることに対して違和感を覚える社員や世間の声があるのも事実です。
職場とプライベートの境界線は？
多くの働き手が抱える共通の疑問として、「会社に自分の休日の行動まで伝える必要があるのか？」という点があります。
私たちの生活の中には、「勤務時間」と「私生活」という明確な区分があります。就労契約上、多くの職種では勤務時間外の行動について企業が口出しする権利はありません。もちろん、会社の信用を著しく傷つける行為（例えば、公然と違法な行動をSNSに投稿したなど）は別問題ですが、通常の範囲内での外出や旅行がプライバシーに属することは論を待ちません。
これは、憲法においても「個人の自由」や「プライバシーの保護」が保障されていることにも通じます。たとえ企業が社員の安全や組織のリスクを懸念していたとしても、その懸念がプライバシーへの過剰な介入につながれば、社員の信頼や士気を損なう恐れがあります。
社員に生まれる心理的圧力
記事では、こうした「予定提出」が社員の心理に与える影響にも触れています。実際に、会社からの要請が「強制ではない」とされていたとしても、組織に属している以上、「周りが提出しているなら自分もしなければならない」と感じる方が多いのが現実です。
また、内容によっては「外出が多い人はマークされるのでは」「旅行に行くと不利益があるのでは」と懸念する声もあります。こういった背景から、社員が自分の意思とは無関係に行動を制限するようになったり、予定を「盛って」報告するような事態にもつながりかねません。
企業と社員の信頼関係を築くために
もちろん、企業にも社員を守る責任があります。その意味では、連休明けの健康チェックや、体調管理を呼びかけることは非常に重要です。しかし、そのための手段が個々人の私生活の「管理」や「報告」に向かってしまうのは避けるべきです。
より健全な方法としては、以下のような取り組みが考えられます。
1. 行動予定ではなく「健康状態」の事後報告を重視する
連休明けに体調が悪い人には出社を控えてもらう、体調チェックシートを導入するなど、健康状態にフォーカスした対応にシフトすることで、プライバシーの侵害を避けつつ感染症対策を行えます。
2. 企業のスタンスを明確にし、強制ではないことを徹底する
仮に情報提供を求める場合でも、「希望者のみ」「信任ベースで評価に影響しない」という明確な説明が不可欠です。
3. 社員の主体性を尊重した働き方を推進する
働き方改革や多様性の重視が広がる中で、社員一人ひとりが自分の生活を大切にできる環境づくりが求められています。プライベートへの過干渉ではなく、生活と仕事の共存を応援する方向に進むべきです。
大切なのは「支配」ではなく「信頼」
企業と社員の関係性は、単なる雇用契約を超えた信頼関係に支えられています。その信頼を築くためには、相手の自由や尊厳を尊重し、自律性を認めることが不可欠です。「信頼しているので、予定は聞きません。しかし、体調が悪い時は遠慮なく報告してください」。そんな姿勢が、結果として社員の満足度やエンゲージメントを高め、健全な企業文化を育てていきます。
かつては当たり前とされた「会社は社員の生活まで管理する」という風潮も、今や時代遅れになりつつあります。テレワークやフレックスタイム、ワーケーションといった働き方の多様化が進む中で、私たちは「管理」よりも「信頼」「柔軟さ」を軸にした新しい組織運営のあり方を模索していく時期に来ています。
おわりに
GWは、年に一度のリフレッシュの機会であり、多くの人が心待ちにしている時間です。それを心から楽しむためには、心に余計なストレスや圧力がかかっていないことが大切です。
会社側にも事情があることは理解しつつも、社員一人ひとりの自由な選択が尊重される職場環境こそが、結果的に企業の持続的な成長につながっていくのではないでしょうか。
GWを控えた今、自分たちの働き方や会社との関係を改めて見つめ直してみる、良い機会かもしれません。
