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藤井聡太、鮮烈逆転で竜王戦挑戦者決定三番勝負へ進出 豊島将之との激闘制し将棋界に新たな伝説

2024年4月28日、日本将棋連盟が発表した第36期竜王戦1組ランキング戦決勝において、将棋界に新たな歴史が刻まれた。舞台となった注目の一戦、それは18歳の若き天才、藤井聡太竜王・名人と、トップ棋士の一人として長年将棋界を牽引してきた豊島将之九段による熾烈な勝負だった。結果は、藤井聡太竜王が鮮やかな逆転勝ち。これによって、藤井は自身4期連続となる竜王戦挑戦権を賭けた「挑戦者決定三番勝負」進出を決めたのだった。

この一戦の注目度が高かった最大の理由は、両者の来歴と過去の対戦成績にあった。

藤井聡太――その名を将棋界知らぬ者はいないであろう。2002年生まれ、愛知県出身。2016年に史上最年少の14歳2か月でプロ入りを果たしたのも記憶に新しいが、そこからは破竹の勢いでタイトル戦線に参入。2020年に棋聖を獲得して以降、叡王、王位、竜王、名人と次々とタイトルを手にし、ついには2023年10月、史上初となる「八冠同時制覇」を成し遂げる。羽生善治九段の通算七冠を塗り替えたその偉業に、将棋ファンのみならず日本中が喝采を送った。そして2024年現在、まだ21歳ながらも、名実ともに将棋界の絶対王者である。

一方、対戦相手の豊島将之九段もまた、鮮やかな経歴を持つ名棋士である。1990年生まれ、大阪府出身。2007年にプロ入りし、若い頃から「将棋界の貴公子」と呼ばれ将来を嘱望されていた。2018年には王位を、翌2019年には名人と叡王を同時に獲得し、一時は「藤井対抗馬の最右翼」とまで目されていた棋士である。特に2020年から2021年の一時期には、藤井とのタイトル戦における「最大の壁」として立ちはだかり、将棋界を二分するようなライバル関係を築いていた。

そんな両者の公式戦対戦成績は、実は藤井が大きくリードしている。据えられた最新のデータ(2024年4月時点)では、藤井の17勝5敗。それでも、豊島が過去に藤井からタイトルを守った経験(2021年の叡王戦)や、中終盤のねばり強さで刃を向けられる数少ない棋士であることに変わりはない。

今回の竜王戦1組決勝は、序盤から豊島が緻密な指し回しで持ち味を発揮し、一時は優勢評価を築いていた。AIによる形勢判断では豊島の勝率が90%を超えた瞬間もあったという。しかし、終盤に入ると形勢は一変。藤井らしい緩急自在な指し回しと、絶妙な詰めろ逃れの妙技で逆転に成功。その読みの深さと勝負術は、改めて「天才」と呼ぶにふさわしく、観戦していたプロ棋士たちも驚きを隠せなかった。

この勝利により、藤井聡太竜王は4期連続となる「挑戦者決定三番勝負」進出となる。竜王戦は将棋界で最高額の賞金(優勝賞金約4,320万円)が設定されているタイトル戦であり、名誉・実利ともに非常に価値が高い。その竜王タイトルを、藤井は2021年から現在に至るまで3期連続で保持しており、今年もその防衛の可能性が大きく広がった形だ。

なお、「挑戦者決定三番勝負」の相手は、1組3位決定戦および2組優勝者とのステップ戦によって決まる。そこに登ってくるのは、現在調子を上げてきている永瀬拓矢九段や菅井竜也八段、さらに若手の阿久津主税八段などが候補に挙げられている。いずれにしても、藤井の挑戦者として立ち向かうには、相当な実力と気力が求められる。

加えて特筆すべきは、現役八冠・藤井聡太の「連戦連勝力」だ。特に今年に入ってからの公式戦では、対局相手に苦悩を強いるような驚異的な終盤力を発揮している。AIが「もう逆転は不可能」と判断した局面から再逆転するという、まさに勝負師の奇跡を幾度も起こしてきた。それは単なる読みの深さや、時間配分の妙だけではなく、「どこまで勝負を諦めないか」という精神力の賜物でもある。

若干21歳にして将棋界の頂点に立つ藤井聡太の快進撃は、どこまで続くのだろうか。その一歩一歩が歴史へと塗り替わってゆくたびに、我々将棋ファンはまた、新たな伝説の目撃者になる。四冠、五冠と栄誉を積み上げていった羽生善治九段がかつて成し遂げた「世紀の七冠」も、今や藤井の八冠によって上書きされた。

しかし、その「八冠」という果実にあぐらをかかず、次の一局にすべてをかけ、“挑戦者”のような姿勢を貫く藤井聡太。今回の対局後にも、「苦しい形勢でしたが、終盤までチャンスがあると信じていました」と淡々と語るその言葉に、覚悟と誠実さがにじみ出ていた。

また、この対局後に現地解説を務めた糸谷哲郎八段も「どちらが勝ってもおかしくない内容だった」と称賛しており、将棋ファンからは「まさに名局」との評価が数多く寄せられた。

令和が生んだ稀代の天才・藤井聡太と、平成を代表する実力者・豊島将之。この二人の対局は、もはやタイトル戦でなくとも特別な輝きを放つ。今回の奇跡的逆転劇は、改めて将棋というゲームの奥深さ、そして勝負のドラマ性を我々に体感させてくれた。

藤井聡太の次なる対局が、どんな物語を生むか。引き続きその一手一手から目が離せない。