新型コロナウイルスが感染症法上の「5類」に移行してから1年以上が経過し、日本国内ではマスク着用の有無が個人の判断に委ねられるようになりました。それにもかかわらず、特に若い世代の間では、いまだにマスクを外すことへの抵抗感が強く残っているようです。本記事では、「マスクを外せない若者たち」というテーマを通じて、個人の思いや社会の変化、そしてこれからの私たちの在り方について考察していきます。
マスク生活が「当たり前」になった3年間
2020年春、世界中で新型コロナウイルス感染症がまん延し、日本でも大きな影響を受けました。マスク着用が奨励され、人々の行動は大きく制限されたほか、学校生活や職場におけるコミュニケーションの形も大きく変化しました。マスク姿が日常化され、外すことがむしろ違和感と捉えられる風潮が生まれたことは、多くの人にとって共感できる体験ではないでしょうか。
特に、10代~20代の若者にとっては、思春期から青年期というアイデンティティ形成の時期をマスク着用下で過ごしたこともあり、顔を見せること(=マスクを外すこと)に対する心理的ハードルが高くなっているようです。
若者の率直な声:マスクを外すのが「こわい」
「素顔を見られるのが恥ずかしい」「今まではマスクで顔の半分が隠れていたから安心だった」――こういった声が、インタビューを受けた若い世代からは多く聞かれました。
ある高校生の女子生徒は、「マスクの下は見せたくない場所。化粧しない日もあるし、自信がない」と話します。また、大学生のある男性は、「マスクがなかったら人付き合いのハードルが高くなる。表情を読まれるのが苦手」とコメント。これらの声からは、コロナ禍によって社会全体に浸透したマスク文化が、単なる感染対策以上の意味を持っていることが浮かび上がります。
SNS時代の「顔」への意識
スマートフォンとSNSが日常に浸透する中で、若者たちは常に「他者からどう見られているか」に敏感になっています。写真を撮るときは「一番盛れて見える角度」を意識し、加工アプリで自分の顔を補正するのも当たり前。そうした中で、マスクはまさに“物理的なフィルター”として機能してきました。
「加工しなくても、自然に顔の半分を隠せる」「マスクをしていた方が小顔に見える」などの理由から、マスクは自己防衛のツールとして位置づけられている面もあります。もはや感染症対策だけでは語りきれない、若者たちの複雑な心理背景が存在しています。
「空気を読む」文化とマスク
日本独特の文化でもある「空気を読む」社会的傾向も、マスクを外しにくくしている要因のひとつです。例えば、学校や職場で自分だけマスクをしていないと「場を乱しているのでは」と感じてしまうこと、周囲に合わせて「とりあえずマスクをつけておく」という行動が、結果的にマスク着用の習慣を延命させている可能性があります。
また、駅構内や電車内、商業施設などでは、いまだに多くの人がマスクを着けているため、「皆が着けている中で自分だけ外すのは勇気がいる」と感じる人も多いようです。この同調圧力が、個人の選択を難しくしている現実があります。
これからの社会に求められる「選択の自由」
こうした背景を踏まえると、マスクを外せるかどうかは単純な「個人の自由」の問題ではなく、周囲との関係性や自己認識と深く関わっていることが分かります。その一方で、これからの社会には「どちらが正しい」「どちらが間違っている」という二項対立ではなく、「それぞれの選択を尊重する」姿勢が求められているのではないでしょうか。
ある大学の教授は、「マスクを外したいと思う人が居場所を得られるようにする一方で、着用し続けたいと感じる人の選択も守られるべき」と述べています。つまり、誰かがマスクを外しているからといって不快に感じたり、逆に着けていることを「過敏だ」と揶揄したりすることなく、互いの価値観や判断を尊重し合う文化が大切になるのです。
若者が本当に望むものとは何か
若者たちがマスクを外せない本当の理由とは、自分に自信が持てないこと、他人の評価を気にしてしまうこと、そして何より「安心できる居場所を確保したい」という気持ちかもしれません。これは、世代にかかわらず多くの人が共感できる感情ではないでしょうか。
私たちがこれから目指す社会とは、誰もがそれぞれのペースで自分らしくいられる場所です。そのためには、マスクの有無に限らず、相手がどんな選択をしていてもそれを尊重する、あたたかいまなざしが必要です。
まとめ:マスクの向こうにある「心の声」に耳を傾けて
新型コロナウイルスによって突如始まったマスク生活は、単に感染から身を守るだけでなく、若者たちにとって「素顔を見せない安心」「他人との距離を保つ道具」として機能してきました。
2023年5月以降、マスク着用が個人判断に委ねられるようになっても、心理的な理由によって外せない若者が多く存在することを理解することが重要です。私たちは、そうした「心の声」に寄り添い、個々の選択に対して寛容であるべきでしょう。
マスクを外す、外さない。それは個人の自由であり、どちらも間違いではありません。コロナ後の新たな日常を築いていくうえで、一人ひとりの判断を尊重し、安心して自己表現ができる社会を共に育てていきたいものです。