近年、スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストアといった各種店舗で急速にセルフレジが普及しています。混雑時の待ち時間の短縮や、店舗側の人手不足への対応など、さまざまな利点がうたわれており、今後もこの流れは加速していくと予想されています。しかし、その一方で、この変化がすべての人にとって良いものかというと、そうではない場合もあります。中でも、視覚障害をはじめとした障害を持つ方々にとっては、セルフレジの導入が新たなハードルになっている現実があります。
この記事では、「セルフレジ普及に困惑 障害者の声」というYahoo!ニュースの記事をもとに、セルフレジの普及が障害を持つ人々にどのような影響を与えているのか、そして誰もが使いやすい社会をつくるために私たちは何を考えるべきなのかについて考察します。
セルフレジの急激な拡大とその背景
まず、セルフレジの拡大には明確な理由があります。少子高齢化による労働力不足、非接触型サービスへのニーズの高まり、業務効率化、コロナ禍による感染予防意識の向上など、複数の要因が絡み合い、導入が加速しています。
セルフレジは、利用者にとって「早い」「接客なく気軽」といったメリットがあり、店舗にとっても人件費の削減や従業員の負担軽減などの利点があります。また、商品のスキャンから決済までをユーザー自らが行うため、店舗の生産性向上にも寄与しています。
しかし、そうしたセルフ化・無人化の流れの中で、取り残されてしまう人たちがいます。
見落とされる「合理的配慮」
障害者差別解消法では、行政機関や企業に対して、障害のある人に対して「合理的配慮」を提供する義務があります。つまり、個々のニーズに応じて使いやすいように調整することが求められているのです。
ところが、現状では、視覚障害者がセルフレジを利用しようとすると、多くの困難に直面します。画面の案内が視覚情報に偏っていたり、音声ガイダンスがなかったりと、健常者にとっては当たり前の操作ができない場合があります。また、支払い方法も多岐にわたり、クレジットカードやQRコード決済、電子マネーなど、インターフェースの違いにより混乱する場面もあります。
視覚障害のある女性は、セルフレジを使うときに「全部を一人でやることはできない」と語っています。決済の際、スキャン後どの画面をタッチすればよいか分からない、次に何をすればいいのかが把握できないといった状況が生じています。一部の店舗では、セルフレジ横にスタッフを配置してサポートしているところもありますが、すべての店舗が対応しているわけではなく、「他人に頼らなければ買い物ができない」という不自由さを感じている人も少なくありません。
誰にでもフレンドリーなデザインとは
これまでのセルフレジ導入の動きは、主に業務効率化や経費削減を目的として行われてきましたが、今後は「ユニバーサルデザイン」の視点を取り入れることが求められます。
ユニバーサルデザインとは、障害の有無にかかわらず、誰にとっても使いやすいデザインを意味します。たとえば、音声ガイドを標準機能として搭載し、操作手順を明確に伝える仕組みや、タッチパネルのボタンを大きく、わかりやすくする設計、視覚情報だけに頼らないインターフェースの採用などがそれに含まれます。
また、バリアフリー対応の観点から、音声ナビゲーションが充実したモデルや、多言語対応、補助スタッフの常駐など、「誰でも利用できる」環境整備が重要です。ただし、コストや人員の制約がある中で一律にすべての店舗で実施するのは簡単なことではありません。
そのためにも、私たち利用者一人ひとりが、こうした課題の解決に向けて声をあげたり、理解を深めることが必要です。例えば、「誰もが使いやすいレジであってほしい」と思った時、それを店舗側にフィードバックすることもひとつの方法です。
共に生きる社会に向けて
技術革新とともに社会は便利になっていきます。しかし、その便利さが「一部の人しか使えないもの」であっては意味がありません。全ての人が平等にその利便性を享受できること—それが「誰もが取り残されない社会」実現に向けて重要な視点です。
また、障害を持った方々だけでなく、高齢者や外国人にも共通する課題があります。操作方法が難しい、表示文字が読みにくい、手順が複雑すぎるなど、実は多くの人にとって既存のセルフレジは「決して使いやすい」とは言い切れないのです。つまり、こうした改善は障害者だけでなく、すべての利用者にも恩恵をもたらします。
今後、AIやIoTの発展により、さらに高機能なセルフレジが登場していくと考えられますが、その際には「技術の進歩が人間の生活を補完するものであるべきだ」という理念を忘れてはなりません。
誰もがスムーズに日常を送るために
買い物は私たちの生活の中でもっとも基本的な行為のひとつです。必要なものを手に入れるという当たり前の行動が、特定の人にとっては困難であるという状況は、社会全体で改善すべき課題です。
そのためには、行政、企業、そして私たち市民それぞれが考え、協力し合う必要があります。接客が必要な人への対応力を維持しつつ、セルフサービスの利便性も追求する。機能の選択肢を広げ、利用者が「選べる」環境を整える。それが、より包摂的で豊かな社会への第一歩となるのではないでしょうか。
技術の恩恵を、誰ひとり取り残さずに届けられる社会を—セルフレジという日常の一場面を通じて、私たちが現在直面している大切なテーマを、改めて見つめ直す機会にしたいと感じます。