(本文)
新たなスターの誕生に、日本の格闘技界が湧いている。6月9日(日)、東京・国立代々木競技場第一体育館で開催された「ONE 167: Tawanchai vs. Nattawut 2」。この大会で鮮烈なインパクトを残した16歳の少年、それが平田リオンだ。
平田リオンは、元RIZINファイターであり、現在はONEの主力選手として活躍する平田樹(ひらた・いつき)の実弟。つまり生粋の格闘技一家に生まれ育ち、幼少期から道場で汗を流していた。姉・樹の戦う姿に憧れ、自然と彼自身も総合格闘技(MMA)の道を志すことになった。そしてまだ高校生という年齢でありながら、プロデビュー戦のオファーを受けたのだった。
今回のデビュー戦でリオンが対戦した相手は、シンガポールのユン・ジフン。プロ経験者であり、先輩の意地を見せるべく、リオンに襲いかかる。しかし、この試合で光ったのはリオンの冷静な試合運びだった。序盤からプレッシャーをかけながらも不用意に攻めず、相手の動きをよく見てカウンターを狙う。そして第1ラウンド中盤、タックルからグラウンドコントロールに持ち込み、見事なリアネイキッドチョーク(背後から首を絞める技)で一本勝ちを収めた。
若干16歳、しかもプロ初挑戦とは思えない落ち着きと強さ。試合後、観客は驚愕と祝福のスタンディングオベーションを贈った。そして何より、そこにいた誰もが「この少年は間違いなく未来のチャンピオン候補だ」と確信した。
リオンの姉、平田樹は今や日本だけではなく世界にもファンを持つ人気MMAファイターだ。彼女はジュニア時代に柔道で実績を積み、その後格闘技に転向。RIZINでは破竹の連勝を飾り、その後、アジア最大級の格闘技団体であるONE Championshipと契約。ONEでは「MMA界のアイドルファイター」とも称され、一躍トッププロモーションの顔となった人物だ。彼女の武器は、パワフルな打撃と柔道由来の強力な投げ技、そして試合中も冷静さを失わないメンタルの強さにある。
平田姉弟の父親は、空手や柔道など複数の武道経験者だった。リオンも幼い頃から格闘技に親しんできたが、その環境がいかに恵まれていたかは、彼の落ち着いた佇まいを見れば明らかだろう。今回の試合でも、自らを見失うことなく、着実にミッションを遂行する姿が際立っていた。
試合後、インタビューに答えたリオンは「これからもっともっと強くなりたい。目標は世界チャンピオンです」と笑顔で語った。その顔には、16歳らしい無邪気さと、既にプロの覚悟を備えた男の顔が同居していた。
さらに、それを見守る姉・樹の表情にも注目が集まった。姉は試合直後、「自分がデビューした時より断然落ち着いていて、今後が楽しみ」と目を細めながらコメント。家族の固い絆、そして長年培ってきた「格闘家の血」が、新たな世代に確実に受け継がれていることを感じさせた一幕だった。
近年、日本における若手格闘家の登場はMMA界の大きな話題となっている。朝倉海・朝倉未来兄弟、平本蓮、鈴木千裕など、実力とスター性を兼ね備えた選手たちが次々と登場し、盛り上がりを見せてきた。そしていま、また新たな物語が、16歳の少年・平田リオンを中心に紡がれ始めたのである。
彼が今後どのような成長を遂げるのかは、誰にも予想できない。ただ確かなのは、その第一歩を、多くの格闘技ファンが見守り、応援するに違いないということだ。
平田リオン――。その名は、これから世界に轟くことになるかもしれない。まだあどけない笑顔の奥に、計り知れない闘志と潜在能力を秘めた新星の今後に、大きな期待が寄せられている。