株式会社セブン&アイ・ホールディングスが、新たなトップ体制を発表しました。長年にわたって同社を支えた井阪隆一社長(66歳)が今年7月に退任し、後任にはヨークベニマル社長の小島祥雄(こじま・さちお)氏(57歳)が昇格することが明らかになりました。今回は、企業のトップ交代という大きな節目とともに、それぞれの人物像についても詳しくご紹介します。
セブン&アイ・ホールディングスは、日本を代表する流通グループ企業です。セブン-イレブン・ジャパンを筆頭に、イトーヨーカ堂、そごう・西武といった企業群を抱え、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、百貨店など国内外に広く展開してきました。特にセブン-イレブンは、国内外で5万店近くを運営する世界有数のコンビニエンスストアチェーンであり、グループの成長を牽引してきました。
この巨大グループを16年間にわたり率いてきたのが、井阪隆一氏です。井阪氏は1980年に早稲田大学を卒業後、イトーヨーカ堂に入社。そこでキャリアを積み、セブン-イレブン・ジャパンに移籍後、現場経験を重ねながら経営手腕を発揮しました。2009年にセブン-イレブン・ジャパンの社長に就任し、コンビニ業界の競争激化の中で、商品開発や物流改革、24時間営業体制の柔軟化など、さまざまな改革に着手しました。2016年にはセブン&アイ・ホールディングス社長に昇格し、グループ再編や専門店事業の見直し、デジタル戦略の推進などを進め、一定の成果を収めました。
しかし一方で、グループの多角化戦略の見直しや、国内市場の成熟による成長の鈍化、アメリカ市場のチャレンジなど、課題も抱えていました。昨年には、グループ傘下だった百貨店そごう・西武を売却するなど、大型の構造改革にも踏み切りました。このような状況下で、セブン&アイは次の成長ステージに進むため、新しいリーダーが求められていたのです。
そのバトンを受け取るのが、小島祥雄氏です。小島氏は1966年生まれ、東京都出身。1989年に一橋大学を卒業後、イトーヨーカ堂に入社しました。小島氏は特にスーパーマーケット事業に長く携わり、地域密着型店舗の強化に尽力してきました。その後、グループ再編の中で、神奈川・宮城を基盤とするスーパーマーケット「ヨークベニマル」社長に就任。コロナ禍でも地域社会に根差した営業を続け、売り上げ向上と利益体質の強化を実現した手腕が高く評価されています。
小島氏は「現場主義」と「顧客第一主義」を掲げる経営スタイルで知られています。リモートワーク全盛の時代にあっても、自ら足を運び現場スタッフと意見交換を行い、消費者のニーズを肌で感じ取ることを大切にしてきました。その姿勢は、巨大企業グループを率いる上で求められる「現場感覚」と「実践力」を証明するものでもあります。
新体制発表にあたって、小島氏は「これまでグループが築いてきた顧客への信頼とブランド力をさらに高め、成長を持続できる企業グループを目指したい」と意欲を語っています。特に重点を置きたいのが、国内市場の深掘りと海外市場の拡大戦略です。日本国内ではコンビニ・スーパー・専門店それぞれの業態でさらなる統合と新たな顧客体験(CX)向上を目指し、海外では北米市場を中心にコンビニ事業の拡大を加速させていく考えです。
一方で、小島新体制においても課題は少なくありません。昨今の物価高騰、人手不足、消費動向の変化にどう対応していくか、さらにデジタル化の遅れをどう挽回するかが焦点です。また、これまでグループ内に存在してきた各事業会社間のシナジー(相乗効果)を最大化することも求められます。
今回のトップ交代は、セブン&アイ・ホールディングスにとって「第二の創業」とも言える節目となるでしょう。巨艦の舵取りは容易ではありませんが、小島氏の現場感覚と大胆な改革力が、新たな時代を切り拓く鍵となることは間違いありません。
一方で、井阪氏も完全に経営の第一線から離れるわけではありません。今後は「特別顧問」として、後進の支援にあたりながら、グループの企業文化の継承にも貢献していく予定です。その柔らかな顔立ちと真摯なリーダーシップで親しまれた井阪氏から、次の世代へとバトンが渡される光景は、多くの社員にとっても励みになることでしょう。
日本の流通業界をリードしてきたセブン&アイ・ホールディングスが、どのような進化を遂げるのか──。小島新社長と新体制の手腕に、大きな期待が寄せられています。今後の一歩一歩に、熱い注目が集まりそうです。