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選挙運動における風景が、今、静かにしかし確実に変わりつつあります。特に目立つのが、インターネット上で活動する、いわゆる「ネット通称候補」の存在感です。
2024年も各地で地方選挙が実施されていますが、これまで主流だった街頭演説やポスター掲示といった伝統的な手法に加え、SNSや動画投稿を駆使して支持を広げる候補者たちが増えています。今回の選挙では、それがより一層顕著になり、ネット中心に活動する候補が「増殖」しているとまで言われるようになっています。
■ ネットから始まる新しい選挙運動のかたち
かつて選挙運動といえば、駅前や公園での街頭演説、ポスター掲示、選挙カーによる遊説が中心でした。しかし、インターネットの急速な普及とともに、選挙の世界にもデジタルの波が押し寄せています。特に、YouTubeやTikTokなど動画配信プラットフォームを活用する候補者が増加しており、これまで政治に関心が薄かった若年層とも接点を持つことに成功しています。
ネットを主戦場にする候補者たちは、高額な選挙資金を必要とせず、自らの考えや政策を直接有権者に訴えることができるという利点を持っています。わかりやすい言葉で訴えたり、日常生活を切り取った動画を配信することで親近感を醸成し、支援を広げています。
■ なぜ「ネット通称候補」が増えているのか
背景には、選挙運動をめぐる法制度の変化もあります。2013年の公職選挙法改正により、インターネットを利用した選挙運動が解禁されました。これにより、SNSやウェブサイトを使った情報発信が公式に認められ、各候補者が自由にネットを活用できるようになったのです。
また、近年の社会状況を振り返ると、新型コロナウイルスの感染拡大も一因となりました。「三密」を避ける必要から、大規模集会や対面での訴えが難しくなり、ネットを通じた運動が改めて注目を集めることになりました。さらに、若い世代を中心に日常生活の中でインターネットが占める割合が高まったことも、ネット選挙の流れを後押ししています。
こうした中で、ネットに特化した発信を行う候補が目立つようになり、それに呼応するように、ネット発だけで広く名を知られる「ネット通称候補」が急増しています。
■ 光と影：ネット選挙に潜むリスク
もちろん、ポジティブな側面だけではありません。ネット上の情報発信は拡散力が高い反面、誤った情報や極端な主張が広まりやすいというリスクも存在します。また、センセーショナルな発言や過激な投稿が注目を集めやすいことから、そうした方向へ走る候補者も一部見受けられます。
さらに、ネットを活用した選挙運動は、同時に誹謗中傷やフェイクニュースの温床となりかねません。選挙は民主主義の根幹を支える大切なプロセスです。自由な言論活動が尊重されるべきである一方、議論の質が損なわれないよう、各候補者や支持者一人ひとりに高いモラルと自覚が求められます。
総務省も、ネット選挙のリスクに対応するため、啓発活動や各種ガイドラインの周知を図っており、今後ますます健全なネット選挙運動への取り組みが求められるでしょう。
■ 「ネット選挙時代」をどう生きるか
これからの選挙において、ネットを無視することは極めて難しくなるでしょう。ただし、インターネットだけで全てが完結するわけではありません。有権者にとっては、ネット上の情報だけに依存することなく、多角的な視点で候補者の人柄や政策を見極める力がますます重要になります。
また候補者側も、SNSのフォロワー数や動画の再生回数など「数」にとらわれるのではなく、一人ひとりの有権者と真摯に向き合い、信頼関係を築く努力が求められます。選挙活動における本質は、あくまでも有権者の信任を得ることにあります。見せ方や話題作りに偏りすぎると、逆に信頼を失ってしまう危険もあるでしょう。
一方で、インターネットを通じて、これまで政治や選挙に無関心だった層が政治参加するきっかけを得られたことは、非常に大きな意義があります。動画やSNSを通じて政治家の考えや人柄に触れ、意見を交わす文化が根付いていくことで、より豊かな民主主義社会の実現につながっていくでしょう。
■ 一人ひとりが担う「選挙の未来」
時代の変化に合わせて選挙運動のかたちが変わることは、避けられない流れです。しかし、その流れをより良いものにできるかどうかは、私たち一人ひとりの意識にかかっています。
「ネットだから」「バズっているから」という理由だけで判断するのではなく、自らの目で情報を確かめ、考え、選択する――そんな態度が今後ますます重要になっていくことでしょう。また、候補者にとっても、自らの発信が社会に対してどのようなインパクトを持つのかを常に意識しながら、より誠実な情報発信を心がける必要があります。
インターネットと選挙――この新しい組み合わせは、まだ発展途上にあります。そこには多くの可能性と、同時に課題も存在します。しかし私たちがその力を正しく使いこなすことができれば、より透明で、より多様な意見が反映された政治を実現できるはずです。
これからの時代、選挙はますます身近なものになり、そして皆さん一人ひとりが、その未来を形作っていく担い手であることを、改めて心に刻んでいきたいですね。
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