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伊藤匠19歳、将棋界に新時代到来──藤井聡太への挑戦と栄光への道

将棋界に新星──伊藤匠七段が挑む、偉業への道

2024年6月20日、将棋界に再び熱が走った。19歳の若さで将棋界を席巻している伊藤匠七段が、第95期棋聖戦五番勝負の第2局に勝利し、藤井聡太棋聖(王位・叡王・竜王などを合わせた八冠)から1勝1敗のタイに持ち込んだのだ。トッププロ中のトップである藤井八冠にタイトル戦で挑むだけでも快挙だが、さらに勝ち星を挙げたことで、将棋界は彼を新たなスター候補と見なしている。

対局後、大勢の報道陣に囲まれても、伊藤は淡々としていた。「一局一局、自分のできることを精一杯やるだけです」と控えめに語る姿は、若干19歳とは思えない落ち着きを見せていた。しかし、その内面には熱い将棋への情熱と強い意志が秘められている。

伊藤匠という名前は最近になって急速に知られるようになったが、彼のキャリアを振り返ると、その才能は早くから輝いていた。2002年10月、東京都豊島区に生まれた伊藤は、幼少期から将棋に親しみ、小学5年生で日本将棋連盟が主催する「小学生名人戦」で準優勝という輝かしい成績を収める。中学進学後も実力を伸ばし、2016年、わずか13歳で「奨励会」に入会。奨励会とはプロ棋士を目指す若者たちが集まる、厳しい実力の世界である。

その後、順調に昇級し、2020年に四段プロデビュー。この年、伊藤は史上最年少四段記録(14歳2カ月)を持つ藤井聡太とは異なり、18歳でのプロ入りだったが、すぐに頭角を現す。鋭い終盤力と読みの深さ、そして冷静な局面判断が評価され、2023年には24歳以下の若手棋士による大会「新人王戦」で優勝を果たした。

プロ入りしてからは、勝率7割を超えるペースで勝ち続け、短期間で七段に昇段。その勢いのまま、今回、初めて七大タイトル戦(棋聖戦)への挑戦権を獲得した。「プロ入りからここまで予想以上に早かったです」と伊藤は語るが、その一方で、彼の裏には並々ならぬ努力がある。

伊藤の将棋は、現代流の攻め将棋を基本にしながらも、相手の動きを冷静に見極める柔軟さを持つ。そのスタイルは、奇しくも藤井聡太八冠と似通う部分があり、「藤井二世」とも呼ばれることがある。しかし、伊藤自身は「藤井さんは特別な存在。自分には自分の将棋がある」と明確に線引きをしている。この自立心こそ、彼の急成長を支えている要素の一つだ。

今回の棋聖戦でも、その成長ぶりを遺憾なく発揮している。第1局は藤井八冠のペースに押されて敗れたものの、第2局は堂々たる戦いぶりだった。先手番を得た伊藤は、駒組みから中盤、終盤にかけて一瞬も緩めずに指し切り、最後はわずかな差を冷静に勝ち取り、藤井からタイトル戦で貴重な1勝をもぎ取った。藤井聡太相手にタイトル戦で一勝するだけでも、トップアスリートのような集中力と覚悟が必要だ。それを19歳の若者がやってのけたのである。

伊藤がここまで成長できたもう一つの要素が「環境」にある。彼の師匠は、深浦康市九段(元王位)というベテラン棋士だ。深浦は「受け将棋」として知られ、冷静な局面判断と堅実な指し回しに定評がある。伊藤は師匠から盤外でも多くを学び、人間性を磨きながら成長してきたとも言われる。師弟としての信頼関係も厚く、伊藤が重要な対局前には、深浦が持つ瀬戸内市の「深浦将棋サロン」で共に合宿を行うこともあるという。

また、伊藤は将棋だけに専念する生活を早い段階で選んだことで知られている。高校卒業後は大学進学せず、プロ棋士一本の道を歩んできた。そのため、同年代の学生たちが社会への第一歩を踏み出す中で、伊藤は「まずはタイトルを獲る」という明確な目標に向かって、日々の鍛錬を積んでいる。

今回の棋聖戦五番勝負は、まだ2局が終わっただけだが、将棋界ではすでに「伊藤時代」の幕開けを予感する声が上がっている。もしこのシリーズでタイトルを奪取することができれば、19歳で棋聖位を獲得する快挙となり、史上最年少タイトルホルダー(藤井聡太の記録)に続く若き歴史を作ることになる。

もちろん、藤井聡太八冠もそう簡単にはタイトルを明け渡す気はないだろう。彼自身もまだ21歳と若く、頂点に立ちながらも日々進化を続けている。棋聖戦第3局以降は、ますます熾烈な戦いが予想され、将棋ファンにとっては目が離せない展開となるだろう。

伊藤匠がどこまで藤井聡太に迫れるのか――。そして将棋界の新たな歴史を築くことができるのか。6月末にかけて繰り広げられる熱戦は、まさに新時代を告げる戦いだ。次なる一手に、誰もが息をのんで注目している。