コールド・ストーン 人気下火の背景を探る
かつてアメリカ発祥のアイスクリームショップ「コールド・ストーン・クリーマリー」は、日本上陸当初、その新鮮さとエンターテインメント性で大きな話題を呼びました。注文を受けたスタッフが、冷たい石の上でアイスクリームとフルーツやナッツなどのトッピングをミックスしながら楽しく歌を歌うその独自のスタイルは、従来のアイスクリーム店にはない驚きと喜びを提供し、多くの消費者を惹きつけました。
しかし現在、その勢いはかつてほどではありません。一時は全国に30店舗以上を展開していたものの、現在では店舗数は大幅に減少しています。なぜ、あれほど人気を博したコールド・ストーンが、ここまで下火になってしまったのでしょうか。その背景には、時代の変化、消費者ニーズの変容、そしてビジネスモデルの課題が複雑に絡み合っています。
かつての「特別な体験」が日常へ
コールド・ストーンが登場した当初、多くのお客さんが店内でのパフォーマンスを求めて来店しました。注文ごとに個別にアイスクリームを作るライブ感、カスタマイズの自由度、そしてエンターテイメント要素。これらは消費者にとって新鮮であり、特別な体験そのものでした。
しかし、年月が経つにつれて、この「特別な体験」は徐々に消費者にとって日常の光景となり、感動が薄れていきました。パフォーマンスそのものが珍しくなくなっただけでなく、繁忙期などにはパフォーマンスの質がばらつき、期待した体験ができなかったと感じる顧客もいたようです。
さらに、昨今は「時間をかけず、手早く購入できる」ことを求めるライフスタイルも一般的になりました。長時間待たされることが一つのストレスとなり、結果としてリピート利用に結びつきづらくなった側面もあると言えるでしょう。
価格設定と顧客ニーズのギャップ
コールド・ストーンのもう一つの特徴は、比較的高価格帯であることでした。オーダーメイド形式のため、どうしても単価が高くなりがちで、1杯あたり700円〜1,000円近い商品も珍しくありませんでした。この価格帯は「特別なご褒美」としては受け入れられるものの、日常的に楽しむには少々ハードルが高かったようです。
特にコロナ禍以降、消費者の財布の紐は固くなり、「コスパ」「気軽さ」が重視される時代背景が強まりました。リーズナブルで気軽に食べられるスイーツが好まれる中、コールド・ストーンの価格帯と提供スタイルは、一部の層には響きづらくなっていたのかもしれません。
競争激化と新しい選択肢の登場
また、スイーツ業界全体での競争の激化も無視できない要因です。若い世代を中心に、新しいデザートブランドやインスタグラム映えを意識したフォトジェニックなスイーツ、食感や健康志向を打ち出した商品など、多様な選択肢が登場しています。
特にタピオカドリンク、韓国発スイーツ、ソフトクリーム専門店などは、次々と話題を集め、「体験」以外にも「手軽さ」「話題性」「SNS映え」といった軸で選ばれる傾向が強まっています。それに比べると、コールド・ストーンの提供する体験型アイスクリームは、やや企画としての鮮度を失ってしまった感が否めません。
ブランド再生への取り組みも
もちろん、コールド・ストーン側も手をこまねいていたわけではありません。季節限定商品の導入、デリバリーサービスへの対応、新業態の開発など、様々な施策を打ち出してきました。最近では、小型の店舗やキッチンカー形式での展開など、より機動力のある販売施策も模索しています。
また、ファストフードのように短時間で購入できる仕組みを導入したり、パフォーマンスを簡素化したスタイルの導入を進めたりと、現代のニーズに合わせた変化を試みています。
コールド・ストーンの魅力とは何だったのか
改めて考えてみると、コールド・ストーンの最大の魅力は「お客さん一人一人のために作る特別な一杯」だったのではないでしょうか。同じアイスでも、ただ冷凍ケースからすくって渡すだけではなく、オーダーに応じたカスタマイズ、そしてその過程も楽しめるという「体験価値」。それこそが、コールド・ストーンを一世を風靡させた理由です。
昨今、消費者は「モノを買う」のではなく「体験を買う」時代に変わりつつあります。コールド・ストーンに求められているのは、単なる過去のスタイルをなぞるのではなく、今の消費者にとって新鮮な「体験」をどのように提供できるかというクリエイティブな挑戦なのかもしれません。
これからの再起に期待
コールド・ストーンは決して「消費者に飽きられたブランド」ではありません。むしろ、良い思い出として多くの人の心に残っているブランドです。だからこそ、現代のトレンドや生活スタイルに寄り添いながら、再び「行ってみたい」「体験してみたい」と思わせる新しい魅力を発信できるかが、これからのカギとなるでしょう。
一度は人気を博したブランドが再び輝きを取り戻すことは、決して不可能ではありません。時代が求めるものにしなやかに適応し、コールド・ストーンならではの「特別な体験」を再定義していくこと。それが、今のコールド・ストーン再生の道筋になるはずです。
今後、どのような展開を見せてくれるのか。コールド・ストーンの今後に引き続き注目していきたいと思います。