医療ミスで小腸が壊死、患者家族が提訴へ――命を守るために必要な「安全な医療体制」とは
2024年6月、多くの人々に衝撃を与える医療ミスのニュースが報じられました。タイトルは「誤った血管切断で小腸壊死 提訴へ」。その内容は、心から信頼していた医療の現場で、取り返しのつかない出来事が起きたことを伝えるものでした。今回、この記事の内容をもとに問題の経緯、患者家族の訴え、そして私たちが改めて考えるべき医療の在り方について、丁寧に掘り下げていきたいと思います。
■事件の概要：誤った血管の切断が招いた深刻な被害
報道によると、神奈川県横須賀市の病院で2022年に手術を受けた70代の男性患者が、医師による誤った血管の切断によって小腸への血流が遮断され、小腸の壊死を引き起こしました。手術は直腸がんの摘出を目的として行われたものでしたが、術中に誤って小腸へ血液を供給する重要な血管を切ってしまい、その結果として小腸の大部分が壊死したというものです。
患者は手術後に意識を回復せず、その後まもなく死亡に至りました。この出来事に対して、遺族は病院側に対して損害賠償を求めて提訴する方針を固めたことが報道されています。
■家族の思いと訴え：“なぜ防げなかったのか”
遺族は、「父は治療を信じ、手術に臨んだにもかかわらず、不必要な苦しみを受け、命を落とした」と話しています。本来、がんの手術というのはリスクが伴うものの、その過程で命を守ることが大前提。誤った血管の切断は、手術中の確認不足や不適切な判断が原因である可能性があるとのことで、家族は「防げたはず」と強く訴えています。
また、病院側が手術の翌日に死亡した患者について、死亡直後には遺族に詳細な説明をせず、時間が経ってから手術中のミスが判明したと伝わったということも、家族の信頼を大きく損ねることとなりました。
■医療の現場で起きる「ヒューマンエラー」
今回の事例のような医療ミスは、いわゆる「ヒューマンエラー（人為的な過失）」によって引き起こされることが多くあります。医学は日進月歩で進化を遂げていますが、医療行為そのものは医師や看護師など人間の手に依存しているため、残念ながら一定の割合でミスは起こり得ます。
しかし、だからといってミスが許容されるわけではありません。命を直接預かる医療の現場では、ミスを防ぐための体制整備や技術の精度向上、ダブルチェック体制の強化といった不断の安全対策が求められます。
どのような背景があったにせよ、「血管の切断を間違える」という種類のミスは、患者の生命に直結するものであり、単純な過失では片付けられない深刻な問題です。
■第三者機関による検証と説明責任の必要性
このような医療ミスが発生した際、非常に重要になってくるのが「第三者による公正な検証」と「病院側の説明責任」です。医師や病院が自らの判断で「事故ではなく不可抗力だった」とするのではなく、独立した立場の医療事故調査委員会などが客観的に状況を分析し、真相を明らかにする必要があります。
日本には、比較的新しく整備された「医療事故調査制度」があり、医療機関は重大な医療事故が発生した場合に第三者機関に報告し、調査を行う仕組みがあります。こうした制度がしっかりと機能し、速やかに情報が共有されることで、患者や遺族の不安を取り除くだけでなく、同様の事故を未然に防ぐための貴重な教訓ともなります。
■医療従事者の立場から考えるプレッシャーと支援体制
もちろん、医療従事者が強いプレッシャーの中で日々命と向き合っていることも、私たちは忘れてはならないでしょう。特に外科手術は、高度な専門性と集中力が求められ、手術チーム全体の連携も極めて重要です。
医療者ご本人たちも、「ミスをしたい」と思って仕事をしているわけではありません。むしろ、過度な労働や人手不足、そして見過ごされがちなメンタル面での支援不足など、現場には多くの課題が横たわっています。こういった背景を踏まえたうえで、医療安全を高める環境づくりが求められています。
■安心して医療を受けられる社会のために
医療は、私たちが最も信頼を寄せる公共サービスのひとつです。体調が優れないとき、不安を抱えたとき、私たちは命を医師や看護師に託すことになります。“安全で信頼できる医療”を実現することは、社会全体の安心につながります。
今回の出来事は、決してひとつの病院やひとつの家族だけの問題ではありません。制度の隙間や体制の甘さが生命に与える影響の大きさを、あらためて私たちに突き付けています。そしてそれゆえにこそ、「どのような状況であっても人の命を守る医療」に向けた努力を、社会全体で続けていくべきなのです。
■まとめ：命への尊厳を忘れずに
本記事で紹介した医療ミスは、非常に悲しい結果をもたらしました。一人の人間、一つの命が失われたという事実の重みは何にも代えがたく、遺族の深い悲しみと怒りは容易に消えるものではありません。
だからこそ、私たちはこの出来事を「過去の悲劇」としてだけではなく、「これからの医療の質と安全性を高める教訓」として、真摯に受け止めていく必要があります。医療機関と医療従事者、行政、そして私たち市民が一体となって、安全な医療現場を育んでいく…。それが、亡くなられた方やそのご家族の想いに応える唯一の道なのかもしれません。
亡くなられた方のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、同様の事故が二度と繰り返されないことを願ってやみません。
