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西村康稔氏に特捜部が事情聴取 旧安倍派「裏金」問題で刑事責任の可能性も

2024年6月、日本の政界を騒がせている自民党派閥の裏金問題を巡り、再び大きな動きが報じられました。舞台は、自民党最大の派閥である清和政策研究会(旧安倍派)――。その中心メンバーだった西村康稔前経済産業大臣に対し、東京地検特捜部が任意で事情聴取を行ったことが明らかになったのです。背景にあるのは、長年続いていた派閥の収支報告書への不記載、いわゆる政治資金パーティーの「裏金」問題です。今回の事情聴取は、特捜部がこの問題を本格的に捜査段階へと引き上げた象徴とも言えるものです。

西村康稔氏は、自民党の中でも知名度の高い政治家の一人です。1962年、兵庫県明石市に生まれ、灘中学・灘高校から東京大学法学部というエリートコースを歩んだのち、通商産業省(現・経済産業省)に入省。政治の世界に転じたのは1999年で、2003年には衆議院議員に初当選。以後、地道な政策づくりや実務能力の高さが評価され、官房副長官や経済再生担当相、さらには2021年の菅義偉内閣では経済産業大臣としても重責を担いました。ロジカルで外交にも通じた国際派の政治家として知られ、テレビ番組でも解説者として登場するなど、一般市民にも比較的知られた存在です。

そんな西村氏が事情聴取の対象となった背景には、旧安倍派の内部構造と政治資金の流れがあります。安倍晋三元首相が率いた清和政策研究会は、長らく自民党内で最大の力を持ち、政策面だけでなく人事や財政面でも強い影響力を有していました。その中で、資金集めの一環として重要だったのが、「政治資金パーティー」です。政策グループはパーティーを開催し、企業や個人からのチケット購入によって資金を集め、それを政治活動に充てます。この収支については、政治資金規正法でその記載が義務づけられていますが、ここ数年、その記載と実態が大きく乖離していたことが問題視されてきました。

特に問題となっているのは、パーティー券の販売ノルマ超過分が、議員個人へ事実上「キックバック」されていたにもかかわらず、それが政治資金収支報告書に記載されていなかった点です。この記載漏れは法的には「虚偽記載」に該当する可能性があり、刑事責任を問われる重大な問題となっています。旧安倍派では、複数の議員がこの「ノルマ超過分のキックバック」を恒常的に受けていたとされており、すでに何人もの人物が事情聴取を受けていますが、西村氏もその筆頭格の一人とみなされていたのです。

ここで注目されるのは、西村氏がどのような立場でこの「裏金問題」に関与していたのかという点です。西村氏は旧安倍派の中でも理論派、政策通として知られ、財務管理や資金調達などの運営面に直接大きく関与していたわけではありません。しかし、特捜部が注目しているのは、パーティー券の販売実態や金銭の流れに対する議員個人の認識と、その報告書への反映がどうであったかという点です。つまり、西村氏が受け取った金額が存在し、それを報告せずにきたのであれば、「知らなかった」ではすまされない可能性があるのです。

実際、報道によれば、西村氏の関連政治団体において、複数年にわたってパーティー収入に関する記載が抜け落ちていた形跡があるとされており、その問題について特捜部が具体的な金額や年次、受領の認識などをただしたと見られています。西村氏は記者会見の場などで「違法な点は一切ございません」「すべて法令に則って処理している」と繰り返してきましたが、特捜部はその裏付けを慎重に詰めているようです。

この問題の広がりを見ると、個人の刑事責任を問うだけでなく、金権政治に対する国民の不信感が根底にあることがわかります。政治資金パーティーは合法であり、政治活動をする上で不可欠との主張もありますが、その運用がルーズになればなるほど、「透明性」や「公平性」が失われ、市民からの政治への信頼が揺らぎます。とりわけ、政権与党を構成する自民党の議員が多数関与していると見られる今回のケースでは、「説明責任」や「情報公開」の重要性がこれまで以上に問われています。

西村氏は今後も丁寧な説明を求められる立場にありますし、検察の動きいかんでは、最悪の場合、刑事立件も視野に入る可能性もあると言われています。しかし、同時に、彼がこれまで積み上げてきた政策立案能力や国際的な交渉の経験もあり、今回の局面をどう乗り切るかによって、今後の政治生命が大きく左右されるでしょう。

再発防止へ政治資金の透明化を求める声は日増しに高まっています。政治にとって「資金」は不可欠の要素ですが、それを「信頼」で支える仕組みへと転換することが問われています。今回の西村氏への聴取報道は、その象徴的な始まりかもしれません。

この問題は、一議員の話にとどまらず、政治全体への信頼と、それに応える政治家の姿勢が試される、日本の民主主義の本質に関わる議題となっているのです。