日常生活のなかで、ふとした瞬間に「あれ?この商品、少し内容量が減った?」と感じたことはありませんか?パッケージのデザインもほとんど変わっておらず、価格も据え置き──けれど、開封してみると以前よりも軽く感じる。こうした現象は「ステルス値上げ」と呼ばれ、最近ではさまざまな企業が商品の中身を減らす形でこれに踏み切っています。
2024年5月、複数の食品メーカーが続々と「内容量の見直し」、つまりステルス値上げを発表・実施しました。特に菓子やスナック類、冷凍食品など、身近にある日常食品で顕著に見られています。この記事では、最近話題となった各社の減量の実態とその背景、そして私たち消費者としてどのように向き合っていけばよいかについて考えてみます。
なぜ「ステルス値上げ」が増えているのか?
まず、このようなステルス値上げ──つまり価格は変えずに内容量を減らすという手法がなぜ各社で採られているのか、背景から見ていきましょう。
その最大の理由は、原材料費やエネルギーコスト、人件費の高騰です。コロナ禍や世界的な物流の混乱、さらには国際情勢の不安定化など、さまざまな要因で商品を作るために必要なコスト全体が上昇しています。加えて、円安や原油価格の上昇も影響し、輸入原料に依存する日本の食品業界は特に打撃を受けています。
しかし、価格をそのまま上げてしまうと、消費者の購買意欲が落ちるリスクがあるため、企業は「内容量の見直し」という形で対応せざるを得ない状況にあるのです。
身近な商品で相次ぐ“減量”
2024年のこの春から初夏にかけて、「あの定番商品も!?」と驚くような減量の発表が相次ぎました。
例えば、ある大手菓子メーカーはチョコレートの内容量を従来の60gから55gへと減らしました。一方でパッケージデザインや価格は据え置きのため、購入時には気づきにくく、帰宅して開封してから「あれ?」と気づくような場面も多いのではないでしょうか。
また、人気の冷凍食品も対象となっています。忙しい家庭の食卓を支える冷凍おにぎりやお弁当おかずの中には、1パックあたりの個数がこっそりと減らされているケースも見られます。こうした動きは、都市部のみならず全国各地のスーパーで確認されており、消費者の間でも静かな戸惑いの声が広がっているようです。
企業からの丁寧な説明が求められる時代に
ステルス値上げという言葉が生まれた背景には、「知らぬ間に内容量が減っている」「企業が説明を避けている」といった不信感もあるのかもしれません。ただ、近年は多くの企業がウェブサイトやプレスリリースで、内容量の変更理由を丁寧に説明するようになってきました。
「原材料の高騰」「包装資材の価格上昇」「環境負荷の低減」など、多くの理由が挙げられています。こうした動きは、企業と消費者の信頼関係を築いていくうえで極めて重要です。消費者が納得できる形で情報を開示し、誠実な姿勢で取り組んでいる企業は、逆に支持を得るケースも少なくありません。
消費者としてできること
私たち消費者も、この流れを単に否定的に見るのではなく、社会全体が抱えるコスト上昇の現実に理解を寄せる姿勢も大切です。ただし、きちんと情報が開示されており、納得できる説明があるということが大前提です。
また、ステルス値上げによって商品単価が事実上上がったことを受けて、比較購買の意識をもって商品を選ぶ人が増えているようです。例えばグラム当たりの価格表示(単価表示)をチェックして、量と価格のバランスがとれた商品を選ぶなど、賢い選択が求められています。
さらに、家計節約の観点からは、料理の工夫や買い物のスタイルを見直すよい機会とも言えます。冷凍保存術を活用してまとめ買いをしたり、旬の食材を上手に取り入れたりすることで、意外と満足度の高い生活につながることもあります。
「減ること」の価値をどう捉えるか
ステルス値上げを「損した」と感じるか、それとも「時代の変化に対応した結果」として受け止めるかは、それぞれの考え方次第です。ただ、暮らしの中で小さな変化に気づくことで、自分たちの生活のあり方を見つめ直すきっかけにもなります。
また、健康志向の観点からは「量より質」を重視する選択も出てきています。少しでもよい素材を使ったもの、過剰な添加物を避けた商品、または産地や製法にこだわる食品など、質にお金を払うという意識も徐々に広がっているのではないでしょうか。
これからの企業と消費者の関係
ステルス値上げは、企業にとって決して簡単な選択ではありません。長年親しまれてきた商品を維持するために、価格、品質、内容量――それらのバランスをどう取るか、日々葛藤を重ねています。
一方、消費者としても、「安ければよい」「量が多ければ得」といった価値観だけでなく、「持続可能性」や「企業の姿勢」に目を向けながら商品を選ぶ時代に入りつつあります。
これまで以上に、企業と消費者の関係は“対話”を通じて築かれるべきものとなっています。情報をしっかりと伝え、理解し合い、最終的に“信頼”が生まれるような循環を育むことで、今後の日本の消費文化にとってもプラスの影響を与えることでしょう。
おわりに
「ステルス値上げ」という言葉には、どこかネガティブな響きが含まれています。しかし、その背景には企業努力や社会全体の変化、そして私たちの日常の選択がつながっています。
今後もさまざまな商品で内容量の見直しが行われる可能性がありますが、そのたびに一喜一憂するのではなく、「何を選ぶか」「どのように暮らすか」を軸に、前向きな視点で生活を築いていくことが大切です。私たちが賢く商品を選び、企業が誠実に情報を開示して信頼関係を築いていける社会。そのバランスが、より良い未来への第一歩となるのではないでしょうか。