2024年、東京都区部の賃貸住宅市場において注目すべき動きが見られました。総務省が発表した消費者物価指数によると、東京都区部における「家賃(持ち家の帰属家賃を除く)」が前年比で0.3%上昇しました。この上昇率は、実に約30年ぶりの高水準に相当します。バブル経済が終わり、長らく続いてきた低成長かつデフレ傾向の時期において、家賃の上昇は稀な現象とされてきましたが、ここにきてその流れが変わりつつあることが示されました。
本記事では、都区部の家賃上昇の背景やその影響、今後の住宅市場の見通しについて、わかりやすく解説いたします。
■ 30年ぶりの家賃上昇、その背景とは?
東京都が含まれる都区部の住宅市場において、家賃はこれまで「安定的」と表現されることが多く、インフレ傾向にある他の商品やサービスと比較しても、急激な価格変動は少ない分野でした。しかし、ここにきて上昇傾向が見られる要因は複数あります。
一番の要因として考えられるのは、人々の生活スタイルの変化です。コロナ禍を経て、リモートワークや在宅勤務が広がり、住まいに求められる条件が変わってきました。それに伴い、都心ならではのアクセスの良さと利便性を再評価する動きが再び強まったことが、需要増加に拍車をかけています。
また、2022年から社会全体で再び動き出した経済活動の活性化に伴い、企業のオフィス回帰や都市部への人材集中も進行中です。若年層をはじめとする単身世帯の転入が活発になるに連れて、ワンルームや1LDKなどの小規模物件の需要が上昇し、平均家賃の増加につながっていると見られます。
■ 政府発表の消費者物価指数に見る「家賃上昇」
総務省が発表した消費者物価指数(CPI)は、日々の生活に密接に関わるさまざまな品目の価格動向を示す重要な統計です。この中でも、家賃は「住居」カテゴリーとして位置づけられており、生活に直結した支出項目と言えます。
今回、東京都区部における「持ち家の帰属家賃を除いた家賃」が0.3%の上昇を記録。1990年代前半以降、大きな動きを見せてこなかったこの項目が上昇するのは、バブル崩壊以来の状況とも言われ、非常に注目されています。
さらに、都区部以外のエリアにおいても、同様に緩やかながら家賃の上昇傾向を示している地域が見られ、全国的な流れとして定着する可能性も示唆されています。
■ 賃貸住宅オーナー・不動産業界への影響
家賃の上昇は、貸主にとっては一種の恩恵でもあります。これまで多くの賃貸物件では空室率や家賃下落を心配して、家賃の値下げやフリーレント(入居初月無料)など独自の施策を取るケースが多く見られました。
ところが、賃料上昇が社会的に一般化するにつれ、貸主側が強気に出ることも可能になってきました。結果、今後の更新時に家賃交渉が難しくなったり、新たに物件を探す人にとっては、これまで以上に条件の良い物件を見つける難易度が上がることも予想されます。
不動産会社にとっては、売上の増加や入居率の上昇につながることもある一方で、競争がさらに激化し、差別化のためのサービス向上や物件管理の質を問われる可能性もあります。
■ 借り手側にとっての影響と今後の対策
一方で、借り手、特に若年層や単身世帯にとっては、家賃の上昇が生活費全体に与える影響は小さくありません。給与がまだ伸び悩みを見せる中で、家賃だけが上昇すれば、その他の生活費圧迫にもつながりかねません。
そのため、今後は「家賃が少々高くても借りたい」と思わせるような物件の供給や、「共用スペースの充実」や「IoT対応」など、新たな価値を持つ住宅ニーズが高まってくると考えられます。
借り手側も、限られた予算の中で賢く物件探しを行う必要があります。敷金礼金ゼロや家具付き物件など、初期費用を抑えられる物件を柔軟に探す力が求められるでしょう。また、エリアを広く見渡して、都心以外の交通利便性の高いエリアも検討候補に入れることが現実的な方法かもしれません。
■ 少子化・人口減少社会における矛盾する現象?
一見すると「人口減少が続く日本で、なぜ家賃が上がるのか?」という疑問を持つ方も多いかもしれません。確かに日本は少子高齢化が進み、長期的には住宅ニーズが減少するとも言われています。
しかし一方で、都市部への人口集中はいまだ根強く、特に東京圏への流入は止まっていません。内閣府の調査でも、地方から東京圏への転入者数は依然として多く、結果として都市部の住宅需要は底堅さを保っているのです。
これに加え、外国人労働者の受け入れ拡大も、都市部の住宅需要を維持・上昇させる一因となっています。外国人単身者・家族の賃貸需要は、近年ますます多様化し、賃貸市場における新たなプレーヤーとして注目されています。
■ 今後の見通しと備え
今回の都区部における家賃上昇は、一時的なブームではなく、将来的なトレンドの兆しかもしれません。市況や外的要因に左右される不確実性はあるものの、急激な社会構造の変化や都市再開発の進展などが今後の価格動向に影響を与える可能性もあるでしょう。
賃貸住宅市場においては、双方が納得する形での「価値ある契約」がますます重要になってきます。価格だけに目を奪われず、管理面や周辺環境、将来的な更新条件など、トータルでの価値を見極める力が問われる時代になったといえるでしょう。
家賃という日常生活に欠かせない支出項目が、今後どのように動いていくのか。私たち一人ひとりが、変化に柔軟に対応する力を持つことが求められています。
日々の暮らしと直結するテーマだからこそ、今起こっている「家賃の変動」という現象を、自分自身の生活にどう影響するかを考えることが大切なのではないでしょうか。