近年、働く女性を取り巻く環境に大きな注目が集まっています。中でも、妊娠や出産に関わる女性の健康問題、とりわけ「流産」によって職場を離れざるを得なくなるケースが社会に及ぼす影響については、これまで十分に可視化されてきたとは言えません。しかし、2024年5月、日本労働組合総連合会(連合)が発表した調査により、「流産による女性の離職が年間で約466億円の経済的損失につながっている」という事実が明らかとなりました。この衝撃的な数字は、多くの人々にとってこれまで見過ごされがちだった問題にスポットライトを当てる契機となっています。
この記事では、連合による調査の具体的な内容や、その社会的背景、そして私たち一人ひとりが取るべき行動について考えていきます。
流産と離職:無視できない現実
妊娠を経験する女性のうち、一部は予期せぬ流産という苦しい事実に直面します。体調面だけでなく、精神的にも大きなダメージを受けるこの出来事は、時に仕事を続ける意欲や体力までも削いでしまいます。さらに、職場の理解やサポート体制が十分でない場合、結果として「職場に戻ることができない」「働き続けることが難しい」と感じ、離職を選ばざるを得なくなる女性も少なくありません。
連合の調査によると、流産を経験した後、実に女性の約1割が何らかの形で仕事から離れています。この数自体がかなりの割合であるにもかかわらず、これまで社会的な問題として認知されてこなかった背景には、妊娠や流産が個人的かつプライベートな事柄と捉えられがちであることが関係していると考えられます。
466億円という経済損失の意味
今回の調査結果で特に注目すべきは、「流産由来の離職により、年間約466億円の社会的損失が発生している」と推計された点です。この金額には、労働力の逸失による経済活動の低下だけでなく、再就職支援費用や医療費、育児支援環境の未整備が引き起こす副次的な損失も含まれています。
日本は依然として少子高齢化が進行する中、生産年齢人口の減少に直面しています。このような中で、働く意志と能力を持つ女性たちが、出産や流産といったライフイベントによって職場を離れざるを得ない状況は、社会にとって非常に大きな痛手であると言えます。
職場の理解と支援体制の重要性
では、こうした離職を減らすためには何が必要なのでしょうか。第一に挙げられるのは、職場における「理解」と「支援体制」の強化です。流産を経験した後でも職場に戻りやすい環境、例えば柔軟な勤務制度や心のケアを含む相談窓口の整備、そして復職に向けた段階的なサポートが求められます。
また、上司や同僚の理解も欠かせません。妊娠や流産に関する知識を全社員間で共有することで、女性が安心して声を上げられる職場風土を醸成することができます。このような文化が育めば、女性だけでなく、家族やパートナーを支える男性社員にとっても働きやすい環境につながっていくでしょう。
法制度との連携強化もカギ
現在の日本の法律では、妊娠や出産に対する一定の休暇制度は整備されていますが、「流産」に対する制度的なサポートとなると、まだまだ不十分な点が多く残されています。例えば、流産に伴う休職は、通常の病気休暇の範囲でしか取れないこともあるため、本人の希望や状況に十分に即した制度とは言えません。
今後は、流産を経験した労働者への公的サポートの強化や、企業が自主的に導入できる福利厚生制度の充実など、社会全体で真剣に取り組むべき課題だと言えるでしょう。
女性活躍社会の足元を固めるために
「女性の活躍推進」が掲げられて久しい昨今、単に女性の登用割合を増やすだけでなく、一人ひとりの女性が安心して長く活躍し続けられる社会の実現が求められています。その土台となるのが、「ライフイベントとの両立が可能な働き方」と「全社員が支え合える職場文化」です。
今回の調査結果は、日本社会にとって、まだ取り組むべき課題が残されていることを如実に示しています。しかしそれは同時に、「変えていける余地がある」という希望でもあります。
おわりに:共感と支え合いの社会へ
流産は、決してその人だけの問題ではありません。職場、家庭、そして社会全体の問題として捉えることが、今後の日本における持続可能な働き方を考える上で重要となってきます。
私たちは、流産に対してもっと理解を深め、支援の輪を広げていく必要があります。そして、女性が自らのキャリアと人生の選択肢を諦めなくてもよい社会を築いていくことが、誰もが安心して生きられる未来へとつながっていくのです。
この問題に対して無関心でいられる人はほとんどいないはずです。今後もこのような問題に光を当て、理解と改善のための第一歩をともに踏み出していきましょう。