音楽業界に再び衝撃が走った。人気バンド「ゲスの極み乙女。」が解散を発表したのである。多くのファンにとってそのニュースは唐突であり、同時にどこか予感していた結末でもあった。解散という事実の裏には、メンバーそれぞれのこれまでの道のりと未来への想いが交差していた。
「ゲスの極み乙女。」は、2012年にボーカル兼ギターの川谷絵音(かわたに・えのん)を中心に結成されたバンドだ。変幻自在な音楽性、ジャンルレスとも言えるサウンド、そして印象的な歌詞で、瞬く間に音楽シーンの中心に躍り出た。川谷の紡ぐメロディと独特の世界観、ベースの休日課長、ドラムのほな・いこか(旧名:ほな・いこかで、現在は別名義で女優業も展開)、キーボードのちゃんMARIという4人が織り成すアンサンブルは、“異色”と呼ばれると同時に、“新しさ”の象徴でもあった。
バンド名のインパクトも相まって、彼らは早くから話題を集めたが、その評価は音楽性によるものがほとんどだった。彼らの音楽は、ロック、ポップス、ファンク、R&Bといったジャンルを越境しながら、日本語詞でありながらどこか洋楽的な響きを持っていた。2013年にリリースされた初のEP「ドレスの脱ぎ方」、2014年のメジャーデビュー作「魅力がすごいよ」、そして大ヒット曲「私以外私じゃないの」など、楽曲は次々とチャートを賑わせた。
そんな「ゲスの極み乙女。」の創設者であり、楽曲のほとんどを手がける川谷絵音は、1988年長崎県の出身。早稲田大学時代に音楽を本格的に始め、のちに大学の仲間たちと共に複数のバンド活動をスタート。その中でも「ゲスの極み乙女。」は最も彼の色が強く出たプロジェクトだった。多才な彼は、indigo la End、DADARAY、ジェニーハイなど複数のバンドも同時に手がけ、いわば“音楽業界のマルチ・タレント”として多方面で活躍した。
川谷はその才能から、時には「天才」や「ポスト・椎名林檎」とまで評されることもあったが、プライベートでの出来事が報道されるたびに話題の中心となり、それが音楽活動に影響することも少なくなかった。だが、彼はその度に音をもって語り、再び聴衆の信頼を取り戻してきた。
バンドの他のメンバーも極めて個性的だ。ベーシストの休日課長(本名非公開)は、理系出身。会社員経験を経て音楽の道へと進んだ異色の経歴を持ち、特にライブなどで見せるタイトでグルーヴ感あふれるベースラインには定評があった。現在はソロ活動や他アーティストのサポートなどでも活躍の場を広げている。
ドラムのほな・いこかは、その華やかなルックスから女優としても活動しており、最近では女優名義で映画やドラマへの出演が話題となった。彼女のドラムプレイは、繊細さと力強さを併せ持ち、バンドサウンドに絶妙な色合いを与えていた。
そしてキーボードのちゃんMARI(本名:福重まり)は、クラシック出身。音大卒の経歴を持ち、確かな技術に裏打ちされたピアノ演奏は、バンドの音世界をより一層奥深いものにしてきた。彼女もまた、バンド解散後にピアニストやアレンジャーとして新たな活動を展開する可能性が高い。
今回の解散にあたって、川谷は「バンドのスタートから12年。この4人でできること、表現したいことは出し切れた」とコメント。決して不仲が理由ではなく、むしろ“完結”とも言えるような、作品としての結末であることを強調している。また、最後のライブとなるツアー「解体」も既に発表されており、一つひとつのステージが“グランドフィナーレ”となる予定だ。
音楽だけでなく、その存在自体が“時代の象徴”だったゲスの極み乙女。ある時代の感性を纏い、光と影を併せ持ち、つねにオリジナルであろうとしたその姿は、決して無意味ではなかった。彼らの楽曲が映し出していたのは、リスナーたちそれぞれの複雑な感情や矛盾であり、それゆえ多くの人々の心に突き刺さったのだろう。
ある種の“閉幕”を迎えた今、ファンとしてできるのは、彼らが残した音楽を噛みしめながら、今後のそれぞれの活動を応援していくことだ。そしてどこかでまた、新しい形でその才能に出会える日を、静かに待つだけだ。
「さよなら」の向こうには、きっとまた「はじめまして」がある。ゲスの極み乙女。の旅は終わるが、彼らの物語はまだ、続いていく。